北朝鮮「崔龍海解任」の深層(下)「不正腐敗」か「対中関係」か

執筆者:平井久志 2015年11月24日
エリア: アジア

 崔龍海氏の解任理由として、発電所問題以外でまず考えられるのは不正腐敗だ。崔龍海氏は長く青年組織のトップを務め、北朝鮮指導部の間でも、青年団体の代表として最も数多く海外旅行に出て、西側文化に最も多く接した人物の1人だ。

金色の腕時計

 身につけているものも西側のブランド品が多いという話もあった。崔龍海氏は昨年11月に金正恩第1書記の特使としてロシアを訪問し、同20日にラブロフ外相と会談した。これを報じた香港のフェニックステレビは、崔龍海氏が外交儀礼を破ってホストより先に発言したことを批判的に報じながら「崔氏の左腕に光り輝く金色の腕時計がとても目立った」と報じた。このフェニックステレビの報道の真意がどこにあったのかはよく分からないが、写真を見るとなるほど金色の腕時計が目立っている。
 李英鎬総参謀長や先輩格であった張成沢党行政部長の粛清を身近で見ていた崔龍海氏が金正恩第1書記に反抗的な姿勢を示す可能性はまずないだろう。しかし、北朝鮮では有数の名家の出身で、幼いときから恵まれた環境で育ち、培われてきた贅沢癖は簡単に直るものではなく、不正腐敗から縁遠い人物とは言いがたい。
 また、北朝鮮では、本人が気にしていなくても、ちょっとしたことが摘発の対象になる。たとえば、海外に密かに銀行口座などを持っていた場合「亡命の準備」という風に攻撃を受ければこれを逃れるのは難しい。崔龍海氏の失脚の理由は不明だが、筆者には最も可能性の高いのは不正腐敗の疑いではないかと思われる。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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