「難民」に揺れる欧州(上)「同時テロ」「婦女暴行」で反転した世論

渡邊啓貴
執筆者:渡邊啓貴 2016年2月17日

 2月7日、オランド仏大統領とメルケル独首相はフランス東部ドイツ国境の街ストラスブールで夕食をとりながら会談した。ユンケル欧州委員会委員長の表現を借りると、「多様な危機(ポリクライシス)」の時期に直面して、欧州の一体性とEU(欧州連合)統合の存在が危ぶまれている。パリの同時多発テロ以後、依然として続くテロの脅威、難民問題、6月にも実施される可能性のある「イギリスのEU離脱(Brexit)」の懸念など、案件は山積みである。

止まらぬ難民の流入

 アラブの春以後の混乱の中で発生した難民問題は欧州統合そのものの根幹を揺さぶっている。
 昨春の地中海難民移送船の相次ぐ転覆や、仏カレーからユーロトンネルでイギリスに向かう危険な密航の試み、そしてトルコの海岸に3歳のシリア難民の男の子の遺体が漂着した映像がマスメディアに流されたことで、EUもようやくその重い腰を上げた。とくに昨年9月の首脳会議では、EU加盟国への難民受け入れ割当制の導入という形でそれは進められた。しかし、その対応については加盟国間で必ずしも一致は得られていなかった。そうした不安定な状況の中で発生した11月のパリの同時多発テロは、いやが上にも、移民・難民に対する欧州各国の国民の警戒感を煽ることになった(2015年11月14日「パリ同時テロ:『治安体制の見直し』も浮上か」記事参照)。
 しかし、シリアからの難民は、「イスラム国」(IS)が占領していたシリア北部アレッポへの攻勢をアサド政権が強めても、減少するどころか増加している。ヨルダンには140万人、レバノンには150万人のシリア難民が滞在している。その多くはシリア北部のアサド政府支配地域からの難民である。彼らのヨーロッパ流入ルートの入り口にあたるのが、ギリシャやイタリアである。彼らはそれらの国を経て、バルカン経由でドイツや北欧に移住することを望んでいる。
 ギリシャのレスボス島には、毎日100艘以上のボートが到達する。1日に4000人以上(推定)が難民としてやってくる。難民の受け入れに寛容だからである。ここでは世界中から集まってきた医師や専門家を含むNGOのボランティアが難民を温かく迎える対応が粛々と進められ、数千人規模の難民キャンプがある。
 今年に入ってからEUに移動してきた難民の合計は、1月下旬現在3万6528人。そのうちギリシャに3万5455人、イタリアに1073人である。地中海横断が危険であることに変わりはなく、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告では、今年に入って3週間足らずで、ギリシャ沿岸だけで44人の死体(うち22人は子供)が上がった。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴
渡邊啓貴 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1954年生れ。パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。
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