【ブックハンティング】「軍服を着た詐欺師」が進めた戦前の石油開発

執筆者:原田泰 2016年2月26日
エリア: 北米 中東 アジア
『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』 岩瀬 昇著/文春新書

 日本は石油がないからアメリカとの無謀な戦争に突き進んでしまったとされている。しかし、戦後1959年、日本が支配していた満洲に大油田が発見された。年間生産量5800万キロリットル(以下、kl)の大慶油田である。太平洋戦争開戦前、日本が必要と見積もった石油は500万kl に過ぎなかった。石油が発見できれば戦争することはなかった。では、なぜ発見できなかったのか。私が、本書の書評を依頼されたのは、同じ問いを旧著『日本国の原則』に書いたからであると思う(私の答えは不満足なものでしかない)。
 日本海軍は、第1次世界大戦を経て、次の戦争は石油で戦われることを認識していた。日本国内ではわずかな石油しか産出できないので、樺太で石油開発を試みた。ただし、石油を産出するのは、日本が日露戦争で領土とした南樺太ではなく、北樺太だった。軍人の力の強い日本で、相手は内戦中のソ連、しかも1920年には樺太対岸の尼港で赤軍パルチザンに日本人700名以上を殺害されている。当然、武力をもって石油資源を抑えるのかと思ったら、遠慮がちで、1925年には不利な石油開発利権条件を飲まされて撤退してしまう。極北の樺太の石油では、戦争をしてまで取る利益がないと考えたからかもしれない。1929年の日本全体の消費量235万kl、国産原油生産量29万klに対し、北樺太の生産量は15万klにすぎなかった。石油の80%はアメリカから輸入されていたのである。

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執筆者プロフィール
原田泰(はらだゆたか) 日本銀行政策委員会審議委員。1950年、東京都生まれ。1974年、東京大学農学部卒。経済企画庁、財務省、大和総研、早稲田大学政治経済学部教授を経て現職。著書に、『日本国の原則』(日本経済新聞社/第29回石橋湛山賞受賞)、『TPPでさらに強くなる日本』(PHP研究所/東京財団との共著)ほか多数。
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