ロシア・中国に接近する「フランシスコ法王」の危うさ

執筆者:秦野るり子 2016年2月29日
カテゴリ: 国際 文化・歴史 社会
2月12日、キューバの首都ハバナで署名した文書を交換するフランシスコ・ローマ法王(左)とロシア正教会最高位のキリル総主教 (C)AFP=時事

 2013年の就任以来、様々な教会改革に取り組んできたローマ法王フランシスコが、外交の難題にも取り組み始めた。歴代法王がかなえられなかったロシア正教会トップとの会談を実現したほか、中国に対しては、旧正月を前に、最大限の賛辞を込めたメッセージを送り、外交関係再開への意欲を強烈にアピールした。だが、こうした外交攻勢の中で、露中両国の人権問題やカトリック信者迫害への言及がほとんどないことが波紋を呼んでいる。法王の目指す外交とは何なのか。

東方正教会との距離 

 2月12日、ハバナの空港で2時間にわたり会談したフランシスコ法王とロシア正教会のキリル総主教は、共同宣言を発表し、「(1054年に分裂した)東西教会の再統一の実現のために、この日の会談が貢献することを望む」とその歴史的意義を強調した。宣言ではまた、中東や北アフリカでキリスト教徒が暴力やテロの犠牲になっていることに憂慮を示し、国際社会の緊急行動を求めた。「宗教指導者は、信者に対し、他の宗教に属する人々を尊重するよう教育する責任がある」とも主張した。
「大シスマ」と呼ばれる東西教会の分裂を経て、東方正教会はギリシャ、ロシア、東欧を、カトリック教会は西欧を拠点として発展してきた。
 ローマ法王を頂点に世界中の教会と信者をピラミッド状に組織するカトリック教会に対し、東方正教会は、統一の組織を持たず、ロシア正教会、セルビア正教会などと呼ばれる各国の教会が自律している。東ローマ帝国の首都があったコンスタンティノープルの総主教が、格式としては筆頭格として扱われ、1965年に、東西教会が相互の破門を解いたのも、当時のローマ法王パウロ6世とコンスタンティノープル総主教アテナゴラス1世であった。
 だが、東方正教会の2億人を超える信者のうち、3分の2を抱える最大勢力であり、国力でも他を圧倒するロシア正教と、カトリック教会との和解は進んでいなかった。カトリック教会は、東西及び、プロテスタントなどに分裂したキリスト教会の再統一を目指す「エキュメニズム」を重要政策として掲げる。その実現と、ロシアでの自由な布教を進めるには、ロシア正教会との関係改善は不可欠だ。とくに、ポーランド出身で初のスラブ系法王だったヨハネ・パウロ2世は、バチカンが所有していたロシア正教徒にとって重要なイコン「カザンの聖母」をロシアに無条件で返却するなど関係構築に向け、手を尽くした。だが、カトリック教会の組織力、資金力を警戒する同正教会は、法王のロシア訪問はおろか、会談も拒否し続けてきた。

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執筆者プロフィール
秦野るり子 1957年東京生れ。82年 読売新聞社入社。経済部に配属され、農水省、流通業界、通産省(現経産省)、日銀などを担当。89年に国際部へ異動。ワシントン、ジャカルタ、ローマ特派員、国際部デスクなどを経て2008年から調査研究本部主任研究員。コロンビア大学ジャーナリズム大学院客員研究員、カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院客員講師も務めた。著書に「バチカン」(中央公論新社)など。
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