「子宮頸がんワクチン訴訟」で明らかになった「情報」と「制度」の不足

上昌広
執筆者:上昌広 2016年4月7日

 3月30日、子宮頸がんの発症を抑えるための「ヒトパピローマウイルス(HPV)」ワクチンの予防接種による副作用を訴える女性たちが、国と製薬企業(「MSD」と「グラクソ・スミスクライン」)を相手取って、損害賠償を請求する集団訴訟を提起する方針を明かした。

 朝日新聞によれば、原告団に参加するのは、北海道から福岡までの10~20代の女性12人。今後、被害者約500人でつくる「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」と連携して参加者を募るという。薬害エイズやC型肝炎に並ぶ大型薬害事件に発展する可能性がある。

 筆者は、この報道を聞いて、暗澹たる気持ちとなった。なぜなら、訴訟が問題解決に有効とは思えないからだ。

 

確立している「国際的コンセンサス」

 民事訴訟の基本は過失と賠償。原告は、国と製薬企業の過失によって、完成度の低いワクチンが出回り、自らが健康被害を受けたことを証明しなければならない。

 ところが、これは至難の業だ。なぜなら、HPVワクチンの安全性については、世界的なコンセンサスが既に確立しているからだ。

 例えば、2013年6月に世界保健機関(WHO)の諮問機関である「ワクチンの安全性に関する諮問委員会(GACVS)」は、オーストラリアで報告されたワクチン接種後の眩暈と動悸、および日本で報告された5人の慢性疼痛について、「現時点ではHPVワクチンを疑わしいとする理由はほとんどない」という見解を示した。

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執筆者プロフィール
上昌広
上昌広 特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」理事長。 1968年生まれ、兵庫県出身。東京大学医学部医学科を卒業し、同大学大学院医学系研究科修了。東京都立駒込病院血液内科医員、虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員として造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事し、2016年3月まで東京大学医科学研究所特任教授を務める。内科医(専門は血液・腫瘍内科学)。2005年10月より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究している。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」の編集長も務め、積極的な情報発信を行っている。
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