日本は「トランプ大統領」を「正しく怖がれ」

執筆者:渡部恒雄 2016年4月25日
エリア: 北米
「トランプ大統領」誕生はありえるのか……(C)EPA=時事

 昨今、トランプが大統領になったら日本はどうするか? という質問を受ける機会が多い。もちろん、現在進行中の共和党大統領選挙予備選でトップを走るトランプ候補が共和党の指名を獲得する可能性は十分にあるし、本選挙も民主党のクリントン候補が優位とはいえ、「トランプ大統領」が誕生する可能性がないわけではない。当然、「トランプ大統領」になったときの日米関係や、日本の対外戦略を考えておくことは重要だ。
 しかし、現在の選挙戦でのトランプ発言をそのまま額面通りに受け取って、極端なシナリオを想定して、心配を煽りすぎるのはあまり賢いとはいえない。福島原発事故の直後、日本社会の中で、放射線の人体の影響について、極端な悲観論と楽観論が入り乱れたことがあったがその時期に、「正しく怖がれ」というメッセージが専門家から発せられた。トランプ現象についても「正しく怖がる」必要がある。 

トランプ発言を「額面通り」に受け取るな

 トランプの発言を額面通りに受け取るべきでない理由は以下の3点による。第1に、トランプが今のような極端な政策や発言を続けて、大統領本選に残った場合、勝利する可能性は少ない。第2に、米国の大統領が議会や社会の合意なしにできることは限られている。第3に、政治家の選挙での発言がそのまま政策になることは、どのような民主主義国にもない。ましてや1年以上も選挙運動が継続する米国では、大統領候補の選挙戦での公約が守られなかった歴史のオンパレードである。
 第1の点だが、鍵を握るアメリカの浮動層が本当に大統領を決めるのは、11月8日の投票日の直前、9月末から10月にかけて行われる3回の大統領候補のディベートを見てからである。もし、トランプ対クリントンの対決になった場合、トランプがこれまでの共和党予備選で圧倒してきた、政治経験も浅くアピール力も弱い候補たちとは違い、政策経験が豊かで、政治の修羅場も何度も潜り抜けているクリントン候補と直接対決をすることになる。しかもレベルが高い厳しい司会者がおり、これまでのように意見をはぐらかして笑いをとるだけでは勘弁してもらえないだろう。
 トランプが共和党の大統領候補に指名された場合、まずは政策アドバイザーチームを立ち上げて勉強しなくては、クリントンには勝てないはずだ。もしトランプがそれをまじめに行うとすれば、その政策は現実的なものになり、ディベートで生き残った「トランプ大統領」は、われわれが現在懸念している人物ではなくなっているだろう。

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執筆者プロフィール
渡部恒雄 わたなべ・つねお 東京財団上席研究員。1963年生れ。東北大学歯学部卒業後、歯科医師を経て米ニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチで政治学修士号を取得。1996年より米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員、2003年3月より同上級研究員として、日本の政党政治、外交政策、日米関係などの研究に携わる。05年に帰国し、三井物産戦略研究所を経て現職。著書に『「今のアメリカ」がわかる本』など。
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