豪潜水艦受注競争「敗北」の本質

 日本、フランス、ドイツが競い合ったオーストラリアの次期潜水艦受注競争が一応の決着を見た。ターンブル豪首相は4月26日、「2030年代以降に導入する潜水艦はフランスと共同で開発する」と発表したのである。
 当初圧倒的に有利と言われていた受注競争に、日本はなぜ負けたのか。これまでの経緯をたどりながら分析を試みたい。

必要に迫られた豪州の次期潜水艦

 発端は、豪州海軍のコリンズ級潜水艦の更新計画だった。コリンズ級は水中排水量3300トンの通常動力型潜水艦で、スウェーデンのコックムス社が設計。オーストラリアの国営造船会社(ASC)で建造され、1996年から現在まで6隻が就役している。
 だが、この潜水艦は優れたものではなかった。水中での騒音がひどく、特に船体構造と足回り(ディーゼル発電機や推進装置等)が弱かった。豪海軍は2000年代後半から、中国の積極的な海洋進出による南シナ海を含めたアジア海域の緊張の高まりも鑑み、後継潜水艦についての検討に入る。結局、遠距離での作戦行動も可能な4000トン級の通常動力型潜水艦12隻を導入することを決めた。
 当初は、通常動力型で輸出実績のあるドイツやスペインの潜水艦が調査対象だったとされるが、2011年、日本が武器輸出3原則を緩和したことで風向きが変わった。海上自衛隊が2009年から運用を開始している最新鋭潜水艦・そうりゅう型もその対象として急浮上することになったのだ。

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執筆者プロフィール
伊藤俊幸(いとうとしゆき) 元海将、金沢工業大学虎ノ門大学院教授、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、日本安全保障・危機管理学会理事。1958年生まれ。防衛大学校機械工学科卒業、筑波大学大学院地域研究科修了。潜水艦はやしお艦長、在米国防衛駐在官、第二潜水隊司令、海幕広報室長、海幕情報課長、情報本部情報官、海幕指揮通信情報部長、第二術科学校長、統合幕僚学校長を経て、海上自衛隊呉地方総監を最後に2015年8月退官。
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