馬英九前総統が「香港」に行けなかった理由

執筆者:野嶋剛 2016年6月15日
エリア: アジア

 台湾の蔡英文政権は、馬英九前総統による香港訪問の申請を認めないとの決定を下した。馬氏は香港生まれで、香港ではかなり人気のある政治家だ。一方、馬氏は台湾ではこの1、2年ほどの期間、いささか居心地の悪い思いを味わいっぱなしで、香港で講演を行い、拍手を浴びて気分転換を図りたい思いもあったのだろう。しかし、いささか拙速な外遊計画だったこともあり、5月20日の政権交代後、初めて持ち上がった現職総統と前任総統との「政治問題」となったが、結果として蔡氏に肘鉄を食わされた形となった。

 

政治的に敏感な土地だから

 蔡英文政権が訪問を許可しなかった理由は、香港という訪問先が台湾にとって重要な意味を持つ場所であることと深く関係している。台湾では、国家機密法に基づき、総統経験者が海外を訪問する場合、退任から3年未満は許可制となっている。台湾の総統経験者の海外訪問で思い出すのが、2001年に起きた李登輝氏の日本訪問のビザ問題だ。日本の外務省が一時ビザ発給を拒否したが、後に政治問題となり、ビザ発給が一転認められた。この時も李氏は退任3年未満だったが、許可問題が話題に上った記憶はない。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
野嶋剛(のじまつよし) 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)、『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)など。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『香港とは何か』(ちくま新書)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com
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