「再クーデター」の可能性も? 30年以上前に「先祖返り」したタイ憲政

樋泉克夫
執筆者:樋泉克夫 2016年8月10日
カテゴリ: 国際 政治 社会
テレビでクーデターを発表したプラユット暫定首相(中央)(C)時事

 

 8月7日、タイでは、2014年5月に決行されたインラック政権打倒のためのクーデターによって停止された憲法に代わる新憲法草案の是非を問う国民投票が実施され、賛成61.4%(反対は38.6%)、「軍政から民政への移行期間」を5年間と設定する付帯事項が賛成58.11%(反対は41.89%)という結果をえたことで、新憲法実施の後、1年後に予定される総選挙を経て民政移管へと動き出すこととなった。なお投票率は54.6%だった。

 

一掃できなかったタクシン支持派

 これまでタイでは、国軍によるクーデター(憲法停止・国会解散)→国軍中心の暫定政権→新憲法制定→総選挙→民政移管、という過程を経ての政権交代が常態化してきた。これまでクーデターから1年前後での新政権発足が一般例であった。であればこそ、来年8月の総選挙となれば、クーデターから新政権発足まで3年以上を経ることとなり、異例なまでの長時間ということになる。

 かくも長い時間を必要とした最大の要因は、直接的には2014年5月のクーデターにあるが、その遠因は2000年初頭のタクシン元首相の登場にあった。1980年代末からはじまったタイの経済成長を背景に政界進出を果たした実業家のタクシンは、通信・情報という全く新しい産業分野出身であるだけに、それまでのABCM複合体(王室・官界・財界・国軍)によるタイの権力構造に風穴を開け、企業におけるCEO(最高経営責任者)的権限を首相に集中することで、タイの経済・社会構造の変革をめざした。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫
樋泉克夫 愛知大学教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年より現職。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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