中国は国連の問題児か?(下)「習近平体制」確立後の成熟

昨年10月、国連総会で演説する習近平氏 (c)EPA=時事

 中国は最初からこうした姿勢で安保理に臨んでいたわけではない。少なくとも2000年代は拒否権の発動こそそれほど多くなかったものの、中国の存在感は非常に大きく、我の強い常任理事国という印象が強かった。しかし、習近平体制が確立し、反腐敗運動が活発になってきた2014年ごろから国連での中国の行動も大きな変化を見せ、上述したような成熟した態度を見せるようになってきた。
 また、筆者が見て来たイラン核交渉においても、中国はP5+1の一角を占めていたが、交渉のほとんどはアメリカとイランの間で行われ、中国はイランの肩を持つわけでも、アメリカに追従するわけでもなく、比較的中立の立場から交渉の成立をアシストするという役回りを演じていた。実際、ウィーンで行われた核交渉の最後の会合ではアメリカやイラン、また武器輸出とミサイル開発に利害を持つロシアは最後まで長期間の交渉を続けたが、中国の王毅外相は、最後の調印式に間に合うようにウィーンを訪れ、調印だけ済ませて帰ってしまうという事務的な対応であった。
 このように、中国の多国間交渉の姿勢は積極的にイニシアチブをとるようなものでも、また、自国の利益を強硬に主張し、交渉の進展を妨げるようなものでもなく、一言で言えばおとなしく、目立たない立場を取り続けているのである。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
鈴木一人(すずきかずと) すずき・かずと 東京大学公共政策大学院教授 国際文化会館「地経学研究所(IOG)」所長。1970年生まれ。1995年立命館大学修士課程修了、2000年英国サセックス大学院博士課程修了。筑波大学助教授、北海道大学公共政策大学院教授を経て、2020年より現職。2013年12月から2015年7月まで国連安保理イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。著書にPolicy Logics and Institutions of European Space Collaboration (Ashgate)、『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2012年サントリー学芸賞)、編・共著に『米中の経済安全保障戦略』『バイデンのアメリカ』『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』『ウクライナ戦争と米中対立』など多数。
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