「朴大統領弾劾」で計算が狂った「潘基文」の隘路

鈴木一人
執筆者:鈴木一人 2016年12月14日
エリア: 朝鮮半島

 韓国国会で自らの与党であるセヌリ党の「親朴派」と言われる人たちの造反もあり、弾劾決議が可決された朴槿恵(パク・クネ)大統領。連日大規模なデモが続き、弾劾決議が採択された後も未だに即時退陣要求のデモが継続されているほど、韓国国民の怒りは強い。こうした世論と国民の「主権者意識」に突き動かされる形で弾劾プロセスが進み、憲法裁判所での審議もそうした圧力のもとで展開されることになるであろう。
 こうした動きを息を潜めて見守っている人物がニューヨークにいる。それは残りの任期があと1カ月を切った潘基文(パン・ギムン)国連事務総長である。現在はまだ国連事務総長の職にあり、韓国の国内政治のプロセスについてコメントすることもままならない状況であるが、任期が終わればすぐにでも韓国に戻り、大統領選に出馬する準備を進めると見られている。しかし、その潘基文氏の戦略は、今回の朴大統領のスキャンダルの発覚から弾劾決議の採択に至ることで大きく狂い始めている。

どの党から出馬すべきか

 潘基文氏の悩みの1つは自らの政治的立場をどこに置くのか、という問題である。彼自身の政治信条は穏健な保守であり、朴大統領とも近いため、当初セヌリ党からの出馬を検討していたと見られる。すでに2016年4月に行われた国会議員選挙でもセヌリ党は「親朴派」と「非朴派」の内紛もあり、過半数割れという結果となっただけでなく、第1党の座を「共に民主党」に明け渡すという状況であり、党勢を失っていた。ただ、潘基文氏はこうした状況だからこそ、「親朴派」と「非朴派」の両者に受け入れられ、セヌリ党を代表できる唯一の存在として自らを位置付け、党内での全面的な支持を背景に大統領選に臨むと考えられていた。
 しかし、今回のスキャンダルでセヌリ党の評判は大きく損なわれた。党内の亀裂だけでなく、「親朴派」と見られていた議員も弾劾決議賛成に回った結果、234の賛成票(反対は56票)で国会の3分の2の賛成多数で弾劾決議が採択された。これはすなわち与党のセヌリ党から最低でも62票の賛成票が出たことを意味し、党の分裂は決定的な状況となっている。しかも、連日続くデモを見る限り、セヌリ党に対する支持は朴大統領のそれと連動して下がっていると思われる中で、党の代表として出馬する意味はほとんどない。
 実際、潘基文氏はもともと外務官僚であり、「共に民主党」の前身である「ウリ党」の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権において外相を務めた人物である。そのため、彼は現在の野党から出馬することも不可能ではなく、党派性は薄い人物である。そのため、泥沼化した党内抗争を繰り広げるセヌリ党から出馬する意味はなく、かといって野党代表になるほどの権力基盤もない状態の中、自らの知名度と国連事務総長経験者としての権威と栄光を武器に、無所属として出馬するのが合理的であろうと思われる。

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執筆者プロフィール
鈴木一人 すずき・かずと 北海道大学大学院法学研究科教授。1970年生まれ。1995年立命館大学修士課程修了、2000年英国サセックス大学院博士課程修了。筑波大学助教授を経て、2008年より現職。2013年12月から2015年7月まで国連安保理イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。著書にPolicy Logics and Institutions of European Space Collaboration (Ashgate)、『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2012年サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(日本経済評論社、共編)、『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(岩波書店、編者)などがある。
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