波乱必至:予測不能の「トランプ政権」を予測する手掛かり

渡部恒雄
執筆者:渡部恒雄 2017年1月3日
エリア: 北米
トランプ米大統領の登場は、世界情勢にどんな影響を与えるか (C)AFP=時事

 2017年を展望する上で、ドナルド・トランプ氏が大方の予想に反して、第45代の米国大統領に選出されたことが、Brexit(イギリスのEU離脱)や欧州でのポピュリスト勢力の台頭などと相まって、世界の波乱を予想させる要素であることは間違いないだろう。筆者もそうだが、米国の主流のメディアや有識者が、最終的にトランプ候補の勝利を予想できなかったのは、トランプ氏のように政治経験がないだけでなく、人格的にも社会的にも、多くの問題を抱えている候補を、米国の有権者が大統領に選ぶとは信じたくなかったからだろう。つまり、願望が冷徹な分析を曇らせた。当選後、1カ月以上を過ぎた冷静な頭で考えても、トランプ氏ほど、国家の指導者としての資質に欠けている人物はそうはいないだろう。

「大統領になる準備」をしていなかった?

 トランプ氏が大統領に選出されたのは必然ではなく偶然だったという見方もできる。米国の政治が抱えている構造的問題により、たまたま彼が大統領に選ばれる環境にあったともいえるからだ。米国の有権者はすでにリベラルと保守に大きく分かれており、どのような候補が選ばれても、2大政党の候補者である限り、着実に基礎票は獲得できる。トランプ陣営は中西部の接戦州で、既存の政治に失望した白人の保守的な労働者層が、脱エスタブリッシュメント、脱ワシントンを掲げ、変化を起こしてくれそうだという1点で、トランプに票を投じたことが決定的な要素になった。
 トランプ氏自身も、直前まで大統領に選ばれるとは考えていなかったふしがある。本来ならば大統領候補は、大統領の決定が生み出す政策が、自己の資産やビジネスに有利になることがないように、利益相反回避のためのビジネスや資産の処理を事前に準備しておくはずだが、トランプ氏にその準備と覚悟はなかった。12月15日までに、自分のビジネスとの利益相反に答えを出すといっておきながら、結局間に合わずに延期したのがいい例だ。おそらく手を付けたら予想以上に複雑な問題だということに気が付いたのではないだろうか。
 また選挙中も、実際に政権を運営することを前提に話をしていたわけではない。政策アドバイザーチームも中身重視で作ってこなかったため、個別の政策はともかく、政策の体系的な調整が、経済・内政においても、外交・安保政策においても、できていないので、正直にいってその方向性はどこにいくのかわからない。これだけでも、トランプ大統領が世界の波乱要素であることがわかるだろう。
 とはいえ、少なくとも、これまでのトランプ政権の人事と、トランプ氏およびアドバイザーの発言から、ある程度の方向性を推し量ることは可能だ。ただしトランプ氏の発言は、あまりにもブレ幅が大きい。そもそも自分の発言に一貫して責任を持つという態度も、まったく見受けられない。したがって、ある程度推測される政策の方向性も、かなりの幅でブレ続けるということが予想される。2017年の世界を睨んで、もしアメリカ人にアドバイスを求めたら、彼らの好む表現で、「バックル・アップ!」(揺れるからシートベルトを締めて準備しろ)というだろう。

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執筆者プロフィール
渡部恒雄 わたなべ・つねお 笹川平和財団特任研究員。東京財団上席研究員(非常勤)。1963年生れ。東北大学歯学部卒業後、歯科医師を経て米ニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチで政治学修士号を取得。1996年より米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員、2003年3月より同上級研究員として、日本の政党政治、外交政策、日米関係などの研究に携わる。05年に帰国し、三井物産戦略研究所を経て2009年4月より東京財団上席研究員。2016年10月より現職。著書に『「今のアメリカ」がわかる本』など。
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