オバマ中東外交の「中途半端さ」を象徴する「イスラエル非難決議」

鈴木一人
執筆者:鈴木一人 2017年1月6日
エリア: 北米 中東
オバマ大統領(左)の拒否権不行使は、優柔不断外交の象徴だったのか(右はネタニヤフ・イスラエル首相)(c)AFP=時事

 年末、とりわけクリスマス前は国連が最も忙しくなる季節である。年末最後の1週間はクリスマス休暇を取る人が多く(国連にはキリスト教ではない人たちに配慮してクリスマス休暇という制度はないため有給休暇などを取る)、オフィスにはまばらに人はいても実質的には機能しなくなる。しかも2016年は潘基文(パン・ギムン)事務総長も任期が最後となるため、全体的に弛緩したムードに包まれる時期である。
 しかし、様々なことが起きた2016年は年末も様々な波乱が巻き起こり、休暇ムードではいられない状況である。クリスマス前の12月23日に採択に付された国連安保理決議が共に大きな波紋を呼ぶ決議であったからである。しかも、この決議は、残り数週間の任期を残したオバマ政権の国連外交を象徴するものでもあっただけに、その余波も大きい。

歴史的な拒否権不行使

 その決議とは日本でも大きく取り上げられた、イスラエルの占領地における入植活動を国際法上違法とみなし、第3次中東戦争(いわゆる6日間戦争)が集結した1967年の国境線の変更を認めず、入植地からの撤退を促す、安保理決議2334号である。
 この決議は賛成14、棄権1で採択されたが、これまでイスラエルを非難する決議に関してはアメリカが拒否権を発動していたにもかかわらず、この決議に関してはアメリカが棄権を選択したことで決議が採択され、イスラエルの入植政策を非難する決議としては1979年以来、36年ぶりの歴史的決議となった。この決議は当初エジプトが提案国として安保理に提出したのだが、おそらくはイスラエルによるものとみられる圧力がかかり、1度は決議案を撤回するという状況であった。しかし、このエジプトが撤回した案をそのまま引き受け、セネガル、ニュージーランド、マレーシア、ベネズエラが提案国となって決議を提案した。
 この決議に対して、イスラエルは即座に決議を無視するという声明を発表しただけでなく、様々な形で決議に賛成した国々に対して嫌がらせとも言える措置を繰り出している。まず提案国であったセネガルとニュージーランド(マレーシアとベネズエラはイスラエルと国交がない)に駐在するイスラエル大使を召還し、抗議の意思を示した。しかし、それだけにとどまらず、セネガルに対しては現在行っている全ての援助プログラムを停止することを宣言し、また両国に対しては経済制裁を科すとも宣言した。しかし、イスラエルに対しては欧州を中心にBDS(Boycott, Divestment, Sanctions:入植地製品のボイコット、資産売却、制裁)運動が展開されており、イスラエルの入植活動に対する制裁を市民レベルで行ってきたこともあるため、イスラエルによる制裁の脅しはほとんど効果を持たないだろう。さらにネタニヤフ首相はニュージーランドのマッカーリー外相との電話会談で、安保理決議の提案国になったことは「宣戦布告と同等の行為だ」と告げたとのこと。
 さらには5つの国連機関に対して合計3000万シェケル(約9億円)の拠出金の支払いを停止することを決定した。さらに安保理決議に賛成した14カ国のうち、国交のないマレーシアとベネズエラを除く12カ国(日本も含まれる)の大使をイスラエル外務省に呼び寄せ、これらの国々との実務的な関係(working ties)を停止すると一方的に宣言した。またイスラエルの閣僚はこれらの国を訪問することを暫定的に禁ずることも命じている。また、ネタニヤフ首相は1月のダボス会議で会談を予定していたイギリスのメイ首相との会談も拒否した。
 これらのイスラエルの措置はいずれも象徴的なもので、実質的な損害を生み出すようなものではない。決議文を読む限り、イスラエルの入植活動を国際法上違法であると判断したことは初めてではなく、また入植活動の停止については「Reiterates its demand(要求を繰り返す)」という表現になっており、パレスチナ人に対する暴力行為については「Calls upon(要請する)」といった文言が使われているように、比較的拘束力の弱い決議である。にもかかわらず、ここまでイスラエルが過剰反応するのは意外な感じもする。
 この点に関し、イスラエルのハーレツ紙(中道左派に位置付けられる)の社説では、ネタニヤフ首相が外相も兼務しているため(彼はその他にも経済相、通信相、地域協力相も兼務)、外交分野の業務をきちんと監督できていないという問題がある、という指摘がなされている。つまり、外務省を経由して上がってくる情報を整理しきれず、また外交的な判断をすべき事柄に十分コミットできていないのが問題であるとの見立てである。ネタニヤフは若い頃アメリカで長く生活し、MITで学位を取ったこともあるため英語も流暢で、かつて国連大使も務めたことがあり、外交に関しては全くの素人ではない。しかし、あまりにも兼務が多すぎ、自らの能力を過信している側面がある一方で、彼を支える与党は保守強硬派を含む6つの党による連立政権であり、所属政党であるリクードは与党67議席のうち30議席と半分以下しかないため、著しく政治基盤が脆弱である。そのため、入植地の問題については常に強硬な姿勢を示さざるを得ないという立場にもある。

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執筆者プロフィール
鈴木一人 すずき・かずと 北海道大学大学院法学研究科教授。1970年生まれ。1995年立命館大学修士課程修了、2000年英国サセックス大学院博士課程修了。筑波大学助教授を経て、2008年より現職。2013年12月から2015年7月まで国連安保理イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。著書にPolicy Logics and Institutions of European Space Collaboration (Ashgate)、『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2012年サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(日本経済評論社、共編)、『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(岩波書店、編者)などがある。
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