Bookworm (21)

デービッド・アトキンソン『新・生産性立国論』

評者:板谷敏彦(作家)

2018年5月20日
タグ: フランス 日本
エリア: アジア

人口減少が進む我が国が
直面する喫緊の問題と対策

David Atkinson 1965年、英国生まれ。小西美術工藝社代表取締役。元ゴールドマン・サックス金融調査室長。『新・観光立国論』『新・所得倍増論』など著書多数。

 著者のデービッド・アトキンソン氏は元ゴールドマン・サックス社の銀行アナリストである。バブル崩壊後、日本の銀行の不良債権の存在を見事に言い当てて、その対策を提案したが、事なかれ主義の日本の役所や銀行経営者たちからは相手にされず、むしろ煙たがられた。
 果たしてその後、無い無いといわれていた不良債権は露見し、都市銀行をはじめとする日本の金融機関の多くは整理される憂き目にあった。
 あの時、彼が指摘した問題にもっと真摯に向き合っていれば良かったと考える人は政財界にも多い。
 そんな彼が今度は日本経済全体について問題点を指摘し、対策を提案したのが本書である。最近は外国人も含めて日本を誉めそやす風潮もあるが、良薬は口に苦いものである。
 日本全体の経済規模(GDP)は人口のおかげで今でも大きいが、1人あたりGDPでは先進諸国の中でも小さく、その伸び率は驚くほど低い。そんな我が国は、現在劇的に人口が減少しようとしている。社会保障を享受する高齢者は増えるが、支出を支える労働人口は増えない。さらに、今や先進国の中でも非常に低い最低賃金は、若年層のワーキングプア問題と重なり出生率を低く抑えている。人口×1人あたりの生産性が国の経済規模である以上、我が国は世界の中で相対的な地位が下落していく過程にある。
 そこで我が国が経済成長するためには現在国際ランクで低位にある1人あたりGDP、つまり「生産性」を引き上げる必要がある。
 日本と同じく高福祉な制度を持ち、すでに出生率の低下を経験して、生産性を引き上げた欧州諸国と比較すると、そこには顕著な差が浮き上がってくる。女性の社会進出の少なさと過剰な中小企業の保護、そして最低賃金の低さなのだ。
 そこで著者が提案する、すぐに行うべき政策は以下である。
1.国家公務員の新卒採用者のうち、半分を女性にする。
2.企業の統合を促進して、デフレの根源を断ち切る。
3.生産性の低い企業を守るべきではない。
4.最低賃金を段階的に引き上げる。
 これらは既得権益者による反対も多いだろう。しかし、すべて現在高福祉を維持する欧州先進諸国が既に通り抜けてきた関門である。
 過去の銀行問題の時と同じように、今回の指摘も煙たがり無視するのか、それとも今回は真摯に向き合うのか。先ずは本書の一読を推奨する。

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