「天然ガスハブ」の幻想を操るトルコ

執筆者:豊田耕平2023年10月24日
トルコとロシアは虚々実々の駆け引き[首脳会談後に握手するプーチン大統領(右)とエルドアン大統領=2023年9月4日、ロシア・ソチ](C)AFP=時事 / TURKISH PRESIDENT PRESS OFFICE

 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻から、トルコの地政学的重要性が改めて脚光を浴びている。フォーサイトにおいても多くの書き手がトルコの各地域における外交的な影響力について論じてきた。サウジアラビアやエジプトなどのアラブ諸国やイスラエルとの関係改善、第2次ナゴルノ・カラバフ戦争でのアゼルバイジャンへの支援、さらにはロシア・ウクライナ間での積極的な中立外交など、トルコのプレゼンスが発揮されている場面は枚挙にいとまがない。この9月には日本から多数の国際政治学者・地域研究者が参集し、イスタンブール・アンカラで講演会・シンポジウムを開催したことも記憶に新しい。かくいう私も同イベントには末席にて参加し、トルコの国際政治における中心性を実感することができた。

 これらの外交攻勢に加えて注目されているのが、トルコのエネルギー地政学における重要性である。2022年9月26日に生じたロシアとドイツを接続する天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1・2」の損傷を受け、ロシア産天然ガスを欧州に輸出する主要な「代替輸出ルート」としてトルコが浮上してきたのである。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は昨年10月13日、トルコに地域の『天然ガスハブ』を設置することを提案し、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はこれを歓迎したと報じられた。

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