核燃料再処理工場「六ヶ所村」はどういう所か

出井康博
執筆者:出井康博 2011年4月28日
エリア: 日本
高い柵で囲まれた再処理工場(写真は4点とも筆者撮影)
高い柵で囲まれた再処理工場(写真は4点とも筆者撮影)

 在日米軍基地で有名な青森県三沢市を抜け、本州最北端の下北半島を車で北上すること約30分。でこぼこの目立っていた狭い国道が、突然、高速道路のように広く平坦な道に変わる。それが六ヶ所村に入った証だった。  六ヶ所村は、下北半島の太平洋側に位置する村だ。面積は大阪市よりも広いが、人口は1万1千に過ぎない。かつては「日本の満州」と呼ばれた貧しい村だった。畜産や漁業以外に産業は乏しく、冬になると東京へと出稼ぎに向かう村民も多かった。しかし、1980年代半ば、原子力発電のための核燃料を再処理する工場を誘致したことで状況は一変した。  今や六ヶ所村は、全国有数の豊かな自治体となった。1人当たりの村民所得は年1364万円(2008年度)と、青森県の平均237万円を6倍近く上回る。1人当たり所得には企業所得も含まれ、単純に個人の所得水準を指すものではない。とはいえ、再処理工場の誘致で、六ヶ所村が以前とは見違えるリッチな村に生まれ変わったことは間違いない。

18回もの完成延期

 再処理工場とは、使用済み核燃料からウランとプルトニウムを抽出する施設である。その後、2つの物質を加工し、通常のウラン燃料よりも高出力のMOX燃料をつくり出す。こうして「核燃料サイクル」を実現することで、輸入頼みのウランを有効活用しようというのだ。ただし、プルトニウムを含むMOX燃料は、原発から放射能が放出される事故が起きた場合、人体や環境に与える影響がより大きい。また、六ヶ所村の再処理工場には40年間で約19兆円という莫大な操業費が見込まれ、経済合理性を疑う声も強い。原発を持つ諸外国でも、MOX燃料の利用を避けている国は少なくないのである。
 それでも日本は、核燃料サイクルを国策に掲げて推進してきた。その中核を担うのが再処理工場である。しかし、国内には茨城県東海村に実験目的の小規模な施設があるだけだ。そこで1993年、六ヶ所村での本格的な再処理工場建設が始まった。当初は97年に完成するはずだった。だが、安全上のトラブルが続出。これまで18回もの完成延期が繰り返された末、現在も試験運転が続いている。7600億円と見込まれていた費用は、すでに3倍近い約2兆2000億円にまで膨らんだ。
 そんな中、3月11日に東日本大震災が発生した。福島第一原発からの放射能漏れが始まって以降、原子力発電の是非を巡る議論も高まっている。同原発3号機にMOX燃料が使われていることも問題となった。とはいえ、世の関心は、今のところ六ヶ所村にまでは及んでいない。

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執筆者プロフィール
出井康博
出井康博 1965年岡山県生れ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『THE NIKKEI WEEKLY』記者を経てフリージャーナリストに。月刊誌、週刊誌などで旺盛な執筆活動を行なう。主著に、政界の一大勢力となったグループの本質に迫った『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、『年金夫婦の海外移住』(小学館)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)、本誌連載に大幅加筆した『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『民主党代議士の作られ方』(新潮新書)がある。最新刊は『襤褸(らんる)の旗 松下政経塾の研究』(飛鳥新社)。
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