【ブックハンティング】「アジアはひとつ」へ向けた日本の振る舞い

野嶋剛
 『重層的地域としてのアジア』大庭三枝著/有斐閣
『重層的地域としてのアジア』大庭三枝著/有斐閣

 本書を読みながら、頭の中をリフレインしていた言葉がある。

 それは岡倉天心の「Asia is One(アジアはひとつ)」だ。ボストン美術館の東洋美術キュレーターであり、『茶の本』を著した日本文化の専門家でもあった岡倉天心が、欧米に日本やアジアの文化を伝える人生のなかでアジア文化の一体性を痛感した経験をもとに語った名言である。

 しかし、実際の国際政治においては、「ひとつのアジア」どころか、複雑に絡みあい、入りくんだ「多数のアジア」が存在している。本書はこの現実を「重層的地域」という言葉で表現し、そのアジアの重層性が、いかなる力学と事象のなかで形成されていったのかを明らかにする。

 そのアカデミックな作業は極めて丁寧で忍耐強く、それゆえに必ずしも取っ付きにくい内容ではなく、読み手もそれなりの忍耐は求められるが、読み進めるうちに、なぜ「アジアはひとつ」になれないのかを否が応でも考えさせられる。アジアはひとつになるべきか、そもそもひとつには永遠になれないのか、我々が今後10年、20年かけて議論すべき課題に対する思考の土台を提供してくれる点が、本書の魅力の1つではないかと思う。

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執筆者プロフィール
野嶋剛
野嶋剛 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。
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