「人手不足」と外国人(10)なぜ実習生の給料は安いのか?

出井康博

「外国人実習制度」を使って日本で就労する中国人が減り始めている。2012年末には11万1385人を数えた中国人実習生の数は、14年末までに10万93人へと減少した。実習生のニーズが減ったわけではない。同じ時期、外国人実習生は全体で1万6000人以上増え、約16万8000人に達している。
 中国人実習生が減った大きな理由が「円安」である。円安は日本を訪れる外国人観光客を急増させているが、賃金を日本円で受け取る実習生にとってはマイナスだ。実習生は人手不足に悩む職種にとって欠かせない労働力となっている。その7割近くを占める中国人が、減少に転じた意味は小さくない。
 実習制度は今国会で拡充が決まる。最長3年の実習期間を5年へと延長し、実習生の受け入れ可能な職種に「介護」なども追加される。しかし、枠さえ広げれば、実習生は日本にやって来るのか。受け入れの現場で追ってみた。

 

単純農作業を担う女性実習生

 JR豊橋駅から車で約1時間――。渥美半島の先から根元にかけて広がる愛知県田原市は、全国でも有数の農業が盛んな街だ。小さな市街地を抜けると、キャベツ畑のなかにビニールハウスが点在する風景が広がっている。人口は約6万5000人に過ぎないが、市町村単位の農業生産額が発表されていた2006年までは全国でトップを占め続けた。
 しかし最近は、高齢化によって農業人口の減少が著しい。そんななか、人手不足を補っているのが外国人実習生だ。田原市の外国人登録者数は昨年3月末時点で1288人だが、そのうち3分の2以上は実習生と見られる。
 市内で農家を営む渡辺真臣さん(41歳)も、中国とベトナムから4人の実習生を受け入れている。
「一見するとわかりませんが、この辺りで自転車に乗っている若い女性は皆、実習生です。地元の人は車で移動しますからね」
 自らのビニールハウスまで車を走らせる途中、渡辺さんが解説してくれた。
 農家で働く実習生のほとんどは女性だ。単純作業には女性の方が向いているのだという。渡辺さんが受け入れている実習生も全員が20代の女性である。
「田原の農業は実習生なしでは成り立たない。実習生を受け入れずにやっている農家の方が少ないくらいです」
 農家は家族経営が基本である。かつては親と子、さらには孫までも一緒に畑に出て働き、繁忙期には近所の主婦をパートで雇って凌いだ。しかし、少子化や核家族化もあって、家族に働き手が減ってしまった。主婦のパートには時間の制約もある。そのため実習生に頼る状況が生まれている。
 都会の建設現場や中小企業の工場で働く実習生たちには、会社が寮やアパートを用意する。しかし田原にはアパートも少なく、実習生はたいてい農家に間借りしている。家族の一員と呼べるような生活だ。
 実習生は母国で就いていた仕事の技能を日本で深め、帰国後に復職して活かすという決まりだ。農家で働く実習生であれば、本来は母国でも農業に就いていた者しか受け入れが許されない。だが、規則はすっかり形骸化している。前職を証明する書類なども、送り出し側の仲介業者が適当にでっち上げてくれる。1人でも多く実習生を送り出せば、それだけ業者も儲かるからだ。渡辺さんが言う。
「実習生たちの目的は、結婚資金を貯めたり、国に帰って商売を始めたりすることです。完全に短期の出稼ぎであって、日本で覚えた技能を使って仕事に就くといった話など聞いたこともない」

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執筆者プロフィール
出井康博
出井康博 1965年岡山県生れ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『THE NIKKEI WEEKLY』記者を経てフリージャーナリストに。月刊誌、週刊誌などで旺盛な執筆活動を行なう。主著に、政界の一大勢力となったグループの本質に迫った『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、『年金夫婦の海外移住』(小学館)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)、本誌連載に大幅加筆した『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『民主党代議士の作られ方』(新潮新書)がある。最新刊は『襤褸(らんる)の旗 松下政経塾の研究』(飛鳥新社)。
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