「成長戦略2015」は本当にダメなのか

原英史
執筆者:原英史 2015年7月10日
エリア: 日本

 安倍内閣が6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2015」(以下「成長戦略2015」)に対し、マスコミや市場関係者の評価は芳しくない。「小粒な政策ばかり」「弾切れ」などと厳しい見方が示されている。
 本稿では、本当にそんなにダメなのかどうか、検証していきたい。
 振り返ると、安倍内閣になって最初の成長戦略は、2013年6月に決定した「日本再興戦略」だ。このときは、期待の高さに反して「具体策不足」とされ、発表と同時に株価が大きく下がる事態になった。
 これに対し、翌2014年6月の「日本再興戦略 改訂2014」(以下「成長戦略2014」)では、法人税引下げ、農協改革、患者申出療養(混合診療解禁)などの“大玉”が盛り込まれ、内外メディアから高い評価を受けた(例えば、英エコノミスト誌では“Shinzo Abe’s fight to reshape Japan’s economy and society is entering a new phase.”として特集が組まれた)。

「2014」の打ち立てた3つの枠組み

 筆者なりに解釈・整理すると、「成長戦略2014」の大きな特徴は、過去の成長戦略の枠組みを超え、新たな3つの政策方針の枠組みを打ち立てたことだ。
 第1は、「企業・産業に“自由”を与える」という枠組みだ。
 これまで歴代政権の成長戦略の多くでは「企業・産業に“カネ”を与えること」に力点がおかれた。「これからの成長分野」(医療・健康、エネルギー、農業など)を政府が示し、補助金・助成措置を投入したが、数年を経ても「これからの成長分野」のままだった。
 “カネ”を与えるより、こうした分野で企業・産業の活動を制約する障害を除去しようというのが「岩盤規制改革」だ。とりわけ、「これからの成長分野」とされてきた医療、エネルギー、農林水産業などの領域には岩盤規制が多い。分野横断的な課題として、労働、外国人就労などの領域の岩盤規制や、高い法人税の問題もある。
「成長戦略2014」では、「法人税引下げ」と「今後2年で岩盤規制を打破」という方針が決定された(後者は、2014年1月のダボス会議で安倍総理が発言した内容を正式に政府決定したもの)。具体策として農協改革など、これまで踏み込むことのできていなかった“大玉”も打ち出された。
 さらに、容易に打ち破れない岩盤規制を突破する仕組みとして、改革の実験場としての「国家戦略特区」が位置付けられた。
 第2は、「企業経営の質を高める」という政策方針だ。
 いかに企業・産業に“自由”を与えても、経営者が活かしきれなければ意味はない。日本企業は海外企業に比べ、技術力は高いが経営力で負けていると指摘されてきた。
「成長戦略2014」は、経営者に対する監視を強め、経営の質を高めるため、「コーポレートガバナンスの強化」に踏み込んだ。これも、過去の成長戦略とは異なる特徴だ。例えば、社外取締役が増えれば、仲間内のぬるま湯経営体質からの脱却に大きな効果をもたらすが、これに対しては産業界から抵抗が強く、なかなか進んでいなかった。
 第3は、「資本の有効活用」だ。
 我が国には、空港、道路、上下水道などをはじめ、これまで整備されてきた莫大な資本が存在する。しかし、これらの多くは国・自治体など公的機関によって運営され、十分に活用しきれていない。
「成長戦略2014」では、PFI・コンセッションなどによる「インフラの民間開放」が打ち出された。

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執筆者プロフィール
原英史
原英史 1966年東京都生れ。東京大学法学部卒、米シカゴ大学院修了。89年通商産業省(現・経済産業省)入省。大臣官房企画官、中小企業庁制度審議室長などを経て、2007年から安倍・福田内閣で行政改革・規制改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月退職。株式会社政策工房を設立し、政策コンサルティング業を営む。大阪府・市特別顧問、国家戦略特区ワーキンググループ委員(内閣府)、社会保障審議会年金事業管理部会委員(厚生労働省)を務めるほか、NPO法人万年野党理事、「地方議会を変える国民会議」発起人など。著書に『官僚のレトリック』(2010年、新潮社)、『「規制」を変えれば電気も足りる』(2011年、小学館101新書)、『日本人を縛りつける役人の掟/岩盤規制を打ち破れ』(2014年、小学館)、『国家と官僚』(2015年、祥伝社新書)。
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