テロリストの誕生(18)「いよいよ戦争だ!」

国末憲人
執筆者:国末憲人 2015年8月29日
エリア: ヨーロッパ 中東

 パリ北東ダマルタン=アン=ゴエルの印刷工場「CTD」では、駆けつけた対テロ特殊部隊「国家憲兵隊治安介入部隊」(GIGN)による包囲が、1月9日朝から続いていた。

 この後で起きるユダヤ教徒向けスーパーの立てこもり事件と違って、こちらは、「人質事件」とは言い難かった。確かに、印刷工場の中にはクアシ兄弟のほか、印刷会社のグラフィックデザイナーであるリリアン・ルペールが閉じ込められていた。しかし、リリアンは経営者のミシェル・カタラーノの指示を受けて、クアシ兄弟が入ってくる前に身を隠していたのである。兄弟は、そんな人物が室内にいるなどと思ってもいない。人質を取っているつもりは全くなかった。

 リリアンが隠れたのは、小さな食堂の流しの下の扉である。縦横70センチと90センチ。奥行き50センチのスペースで、身動きが取れない状態だった。とっさのことで、ここ以外に隠れ場所がなかったのだろう。

 テレビ『フランス2』に彼自身が後に語った内容などによると、しばらくして兄弟の1人が食堂に入ってきて、隣の戸棚を開いて中を確認した。その音が聞こえる。自分がいる扉からわずか50センチのところである。きっとすべての扉を確認するに違いない。次は自分のところだ。見つかってしまう。

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執筆者プロフィール
国末憲人
国末憲人 1963年生れ。85年大阪大学卒。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。富山、徳島、大阪、広島勤務を経て2001-04年パリ支局員。外報部次長の後、07-10年パリ支局長を務め、GLOBE副編集長、本紙論説委員のあと、現在はGLOBE編集長。著書に『自爆テロリストの正体』(新潮新書)、『サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領―』(新潮選書)、『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『イラク戦争の深淵』(いずれも草思社)、『ポピュリズム化する世界』(ダイヤモンド社)、共著書に『テロリストの軌跡―モハメド・アタを追う―』(草思社)などがある。
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