「黄金郷」を目指す難民たち:EU統合「理想と現実」の相克

渡邊啓貴

 シリアをはじめとしてヨーロッパ周辺地域からの難民流入が深刻化している。フランス北西部カレー市からユーロトンネルを通って車両でイギリスに密入国する大量の難民に英仏両国は手を焼いている。その一方でシリアやトルコなどを経てギリシャのコス島にたどり着いた難民と住民との間で軋轢が生じ、さらに難民が北上するための一時滞在地となっているマケドニアの南部ゲブゲリア(Gevgelija)では難民と治安当局が衝突した。
 豊かな地域ヨーロッパへの人の流れは歴史的に絶えない。加えて、欧州統合が進む中で「人の移動の自由」の名の下に、調印国の間では移動の自由が保障される(シェンゲン協定)。第三国人もいったん調印国に入国を認められさえすれば、新しい生活に入っていける。民族対立や戦争で疲弊して生活できない人たちにとって、ヨーロッパは「黄金郷」である。命をかけた亡命悲劇は一世一代の賭けの結果でもある。しかし受け入れる欧州諸国にも事情がある。建前と本音の違いである。そしてその火種は自ら撒いたものとも言えるのである。このままでは、統合の果実の1つである「移動の自由」の意味が改めて問われることになろう。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1954年生れ。パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。
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