「黄金郷」を目指す難民たち:EU統合「理想と現実」の相克
シリアをはじめとしてヨーロッパ周辺地域からの難民流入が深刻化している。フランス北西部カレー市からユーロトンネルを通って車両でイギリスに密入国する大量の難民に英仏両国は手を焼いている。その一方でシリアやトルコなどを経てギリシャのコス島にたどり着いた難民と住民との間で軋轢が生じ、さらに難民が北上するための一時滞在地となっているマケドニアの南部ゲブゲリア(Gevgelija)では難民と治安当局が衝突した。
豊かな地域ヨーロッパへの人の流れは歴史的に絶えない。加えて、欧州統合が進む中で「人の移動の自由」の名の下に、調印国の間では移動の自由が保障される(シェンゲン協定)。第三国人もいったん調印国に入国を認められさえすれば、新しい生活に入っていける。民族対立や戦争で疲弊して生活できない人たちにとって、ヨーロッパは「黄金郷」である。命をかけた亡命悲劇は一世一代の賭けの結果でもある。しかし受け入れる欧州諸国にも事情がある。建前と本音の違いである。そしてその火種は自ら撒いたものとも言えるのである。このままでは、統合の果実の1つである「移動の自由」の意味が改めて問われることになろう。

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