中東―危機の震源を読む (89)

トルコ民族主義の暴発が秘める内政・外交の危険性

執筆者:池内恵 2015年9月9日
エリア: 中東

 何かと受難のトルコにまた難題が発生である。

 トルコでは隣国シリアでのクルド勢力の台頭に刺激されて国内のクルド勢力が政治的に活性化し、それがトルコのエルドアン政権を対PKK軍事対決路線へと舵を切らせるという形でクルド紛争が激化した。これがさらにトルコ民族主義の極右勢力を刺激し、クルド排斥の暴力行為を暴発させ、新たな不安定要因を表面化させている。人種主義的・極右的なトルコ民族主義は、議会で15%程度の議席を確保すると共に、その支持層の一部は国際的な活動も活性化させており、イスラーム主義とは別の超国家的な過激派勢力としていつか大事件を引き起こす可能性もあって、注視が必要である。それはエルドアン政権の統治を揺るがす意外な盲点となるかもしれない。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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