中東―危機の震源を読む (97)

薄れゆく「イラン対サウジの覇権競争」

執筆者:池内恵 2021年4月25日
カテゴリ: 政治 軍事・防衛
エリア: 中東 北米
2019年のサウジ石油施設へのドローン攻撃に米・イスラエルは沈黙を守った。対イラン「最大限の圧力」政策の最前線に取り残されたサウジは…… (C)EPA=時事
近年に盛んに流通してきた「イランとサウジ陣営の対立」「イランとサウジの覇権競争」といった中東政治の見立てには、かなり「作られた物」としての側面がある。4月9日にバグダードで開かれた両国情報・安全保障担当高官の秘密協議が持つ意味とは――。

 中東外交の水面下での動きが激しくなっている。ここ数年の中東を形作ってきた様々な前提を覆しかねない変化が各所で見え隠れする。

 そのうちの最も顕著なものは、イランとサウジの高官による水面下での交渉の報道だろう。

『フィナンシャル・タイムズ』(FT)の4月18日のスクープ報道によれば、イランとサウジの情報・安全保障を担当する高官が、4月9日にイラクのバグダードで協議を開催したとのこと。協議は月内にも再度断続的に開催される見通しである。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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