オペレーションF[フォース] (62)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第62回

執筆者:真山仁 2024年4月27日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】都倉防衛大臣は安全保障の費用負担を訴えるタウンミーティングに出席した。「本土にミサイルを撃ち込まれたら報復するか」と問われた都倉は、意を決して答えた。

 

Episode6 一世一代

 

10

「はっきりと申し上げます。もちろん、反撃すると」

 間近で、都倉大臣の発言を聞いたのに、磯部はすぐにそれを飲み込めなかった。

 聞き間違いに違いない――。

 理性が、そう叫んでいる。だが、会場の聴衆、何より同行記者たちの反応を見て、聞き間違いではないと認めずにはいられなかった。

「課長!」

 磯部に怒鳴られて、広報課長が慌てて閉会を宣言した。

 そして、大臣の退場を告げると、会場から大きな拍手が沸き起こった。

 都倉がそれに応えるかのように右手を上げた。

「大臣、退場しますよ。付いてきて下さい」

 都倉の耳元で囁くと、大臣に近づいて来ようとする聴衆を押しのけるように磯部は進んだ。

 SPが素早く都倉の脇を固め、背後に樋口が付いた。

「通して下さい!」  

 磯部が何度も繰り返し、動線を確保して体育室を出ようと進む前に、記者たちが群がった。

「大臣、今の発言について、コメントをください!」

 ICレコーダーが、磯部の鼻先に突きつけられる。

「それは、改めてにしてくれ」

「いえ、磯部さん、ここで応じるわ」

 背後から都倉に言われ、磯部は呆然と立ち尽くしてしまった。

「逃げても仕方ないでしょ。だから、どこか部屋を確保して下さい」

「樋口!」

 最後尾にいた樋口が、すぐに反応した。

 彼女は、広報課長に大臣の意向を伝えると、区民センター長を捕まえた。

「大会議室が空いているそうです」

 元々、会場として予定されていた部屋だ。

「誘導を!」

 樋口に命じると、センター長自らが先導した。

「じゃあ、皆さん、大会議室で取材に応じます」

 磯部の声で、記者たちは我先に大会議室へ移動し始めた。

「大臣、会見をなさる前に、少しだけ打合せのお時間を戴けませんか」

 既に、大会議室に足を向けている都倉に、磯部は追い縋って言った。

「その必要はないわ。私は、発作的に答えたわけじゃないから」……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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