【前回まで】江島元総理ら野党が提案した国家防衛支援基金――それは国民からの寄付で防衛費を増額する案だった。与党が呑めるはずはなかったが、大迫総理から賛成の指示が出る。
Episode6 一世一代
7
周防と土岐が国会から戻ってくると、すぐに大臣官房長に呼び出された。
大臣官房長の守岡宗二[もりおかそうじ]は、財務省の中でも屈指の切れ者で、周防にとっては、新人時代の教育係で怖い存在でもあった。
「先程の江島元総理が提案した法案を、どう思った?」
お疲れ様などという労いもなく、守岡は単刀直入に問うてきた。
「苦肉の策とは言え、良い案であったかと」
「土岐君は?」
「慙愧に堪えません。財務官僚として、もっとましな法案が出せなかったのかと猛省しております」
土岐の言葉に、周防は驚いた。
これだけ世論が、「増税反対!」と声を上げ、「フラフラ殿下」は、財源確保を国債で逃げようとしている中、財務省として法案や新税を提案できるような状況になかった。
江島の策しか手立てがないじゃないか。
「君が、そう感じているのであれば、多くは語るまい。政府として、防衛費の財源確保のための策を早急に検討して、私に提出してくれ」
「畏まりました」
「なんだ、周防君は何か言いたいことがあるのか」
「言いたいことはありません。ですが、現状を考えると、財務省として財源確保の提案を出したところで、無視されるだけではないでしょうか」
「じゃあ、無視されないアイデアを出せ。だいたい、国家の安全保障費用を寄付で賄っている国が、どこにある。あんな法案は、恥だ」
だが、現状ではいくら財務省が知恵を絞ったところで、「選挙に勝てない増税案なんて検討するわけがない」という与党の大反発を喰らうだけじゃないか。
「周防君、どうせ提案しても、税調に潰されると考えているのであれば、それは、君の案が、その程度だからだ。
国家の財政を預かる財務省として、日本の安全保障のための確固たる財源確保の手立てを提案する。そのために、君らの部署ができたんだよ」
「おまえ、何かはき違えていないか」
対策室に戻るなり、土岐が言った。けんか腰だ。……
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