オペレーションF[フォース] (59)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第59回

執筆者:真山仁 2024年4月6日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】江島元総理ら野党が提案した国家防衛支援基金――それは国民からの寄付で防衛費を増額する案だった。与党が呑めるはずはなかったが、大迫総理から賛成の指示が出る。

 

Episode6 一世一代

 

7

 周防と土岐が国会から戻ってくると、すぐに大臣官房長に呼び出された。

 大臣官房長の守岡宗二[もりおかそうじ]は、財務省の中でも屈指の切れ者で、周防にとっては、新人時代の教育係で怖い存在でもあった。

「先程の江島元総理が提案した法案を、どう思った?」

 お疲れ様などという労いもなく、守岡は単刀直入に問うてきた。

「苦肉の策とは言え、良い案であったかと」

「土岐君は?」

「慙愧に堪えません。財務官僚として、もっとましな法案が出せなかったのかと猛省しております」

 土岐の言葉に、周防は驚いた。

 これだけ世論が、「増税反対!」と声を上げ、「フラフラ殿下」は、財源確保を国債で逃げようとしている中、財務省として法案や新税を提案できるような状況になかった。

 江島の策しか手立てがないじゃないか。

「君が、そう感じているのであれば、多くは語るまい。政府として、防衛費の財源確保のための策を早急に検討して、私に提出してくれ」

「畏まりました」

「なんだ、周防君は何か言いたいことがあるのか」

「言いたいことはありません。ですが、現状を考えると、財務省として財源確保の提案を出したところで、無視されるだけではないでしょうか」

「じゃあ、無視されないアイデアを出せ。だいたい、国家の安全保障費用を寄付で賄っている国が、どこにある。あんな法案は、恥だ」

 だが、現状ではいくら財務省が知恵を絞ったところで、「選挙に勝てない増税案なんて検討するわけがない」という与党の大反発を喰らうだけじゃないか。

「周防君、どうせ提案しても、税調に潰されると考えているのであれば、それは、君の案が、その程度だからだ。

 国家の財政を預かる財務省として、日本の安全保障のための確固たる財源確保の手立てを提案する。そのために、君らの部署ができたんだよ」

「おまえ、何かはき違えていないか」

 対策室に戻るなり、土岐が言った。けんか腰だ。……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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