「日本もAUKUS加盟」論の現実乖離――なぜJAUKUSにならないのか

執筆者:鶴岡路人 2024年4月18日
タグ: AUKUS
日本との協力に前のめりな米国に対し、英豪は慎重な姿勢とされる[AUKUSの活動についての協議後、会見に臨むアンソニー・アルバニージー豪首相(左)、ジョー・バイデン米大統領(中)、リシ・スナク英首相(右)=2023年3月13日、アメリカ・サンディエゴ](C)REUTERS
日米首脳会談を控えて、一部にAUKUS「拡大」や日本の「加盟」が実現するかのような議論も見られたが、AUKUSは先進防衛技術に関する「第2の柱(Pillar 2)」での日本との限定的な協力を模索している段階だ。そうした協力についても、現段階では双方で準備ができていない。日本側に関しては、情報セキュリティや輸出管理体制の不備が指摘されている。AUKUSとの協力が日本の国益になると判断するのであれば、政治的レトリックに惑わされず、必要な準備をしていくことが重要だ。

 米国、英国、豪州の3カ国による安全保障枠組みであるAUKUSへの日本の「加盟」や「協力」、そしてAUKUSの拡大などがさまざまに議論され、メディアでも話題になっている。AUKUSに日本(Japan)を加えてJAUKUSにするといった議論はその好例だ。しかし、その具体化には多くの障害がある。加盟はおろか協力ですら現段階では難しい。一部の論者がAUKUSの本質や意図を踏まえずに議論することで、実態と認識のギャップが拡大しているのではないか。

 以下では、AUKUSと日本およびそれ以外の諸国との協力に関する現状と課題の検討をつうじて、日本とAUKUSとの関係の方向を探ることにしたい。結論を先取りすれば、分野を絞った限定的な協力が想定されるものの、AUKUS側でも日本側でも準備はまだできておらず、具体的な協力の姿はまだほとんどみえてきていないのが現実である。

日本との「協力」は従来からの方針

 AUKUSに関して注目度と知名度が高いのは、第1の柱(Pillar 1)と呼ばれる、米英両国による豪州の原子力潜水艦取得への支援である。原子力(動力)潜水艦の技術は、いまだに「秘中の秘」であり、米国もAUKUSは一回限りのものであることを強調している。これに関して他国の参加や協力は想定されていない。日本も第1の柱には関心がないと表明している。

 そこで、他国との協力に関して注目されるのが、先進防衛技術に関する協力である第2の柱(Pillar 2)である。具体的には、AI(人工知能)、サイバー、量子、極超音速、海中などに関する技術が対象になる。これらの一部に関しては、日本も重要技術を有するために、AUKUSの側でも日本との協力への関心がたびたび表明されてきた。

 各種報道を総合すれば、第2の柱に関する日本との協力に最も積極的だったのは米国だった。これは驚くに値しないだろう。AUKUS諸国のなかで、日本との二国間協力の経験が最も豊富であり、日本が有する技術について最も詳細な情報を持っているのが米国だからである。そして米国は、中国の台頭への対処を中心として、インド太平洋の安全保障のために、同盟国の力をフルに活用したいと考えている。この文脈で日本への期待が高まるのは自然である。

 ただし、こうした米国のいわば前のめりな姿勢に対して、英国と豪州はより慎重だったとされる。特に豪州にとっては、原潜に関する第1の柱をまずは確実に進める必要がある。そして第2の柱に関しては、自国も米国の制度への適応などで多大な苦労を強いられたことにかんがみ、まずは3カ国間での協力を軌道にのせることが優先課題だったのである。それでも、AUKUSが技術協力を進めるなかで、日本のような技術を有する国との協力を視野に入れることは従来からの方針でもあり、その具体化が問われることになった。

「協力」の中身はこれから

 そこで重要なステップになったのが、2024年4月8日のAUKUS国防相共同声明だった。これ自体は、前年2023年3月に発表された特に第1の柱に関する具体的計画(optimal pathway)から1年のフォローアップの意味合いがあったものの、実際には4月10日に控えた日米首脳会談に間に合わせるというタイミングも重要だった。

 同声明でAUKUS諸国の国防相は、第2の柱のプロジェクトには当初から他国を関与させることを検討してきたとしたうえで、「日本の強みおよび3カ国すべてとの緊密な二国間防衛パートナーシップを認識し、我々は第2の柱における先進能力プロジェクトに関する日本との協力を検討している」とした。具体的な協力相手の候補としては、日本のみが言及される格好になったが、具体的な協力の形態については2024年中にAUKUS諸国が協議をおこなうとされたのみだった。

 それを受けた4月10日の日米首脳会談の共同声明は、「日本の強み及びAUKUS諸国との間の緊密な二国間防衛パートナーシップを認識し、AUKUS諸国――豪州、英国及び米国――はAUKUSの第2の柱における先進能力プロジェクトに関する日本との協力を検討している」とした。AUKUS国防相声明の文言をほぼそのまま繰り返したのである。AUKUS声明を交渉する段階ですでに、日米共同声明での使用が想定されていたのだろう。

 首脳会談を受けた日米共同記者会見でAUKUSについて問われた岸田文雄首相は、インド太平洋の平和と安定に資するとの観点で「AUKUSの取り組みを一貫して支持」してきたと指摘したうえで、米英豪とはさまざまに協力関係を構築してきたと述べつつ、「直接我が国としてAUKUSとの協力関係について何か決まったものは現在はない」、今後も米英豪とは協力を進めていくものの、「AUKUSとの関係については以上」と述べた。

 AUKUSを若干突き放したかのようなこの発言は、日米共同声明におけるAUKUSへの言及が、「日本と米国」ないし「日本とAUKUS」が協力を検討するとしたのではなく、AUKUSのみが主語で、「AUKUSが検討する」とされたことと完全に符合する。AUKUSとの協力に関する日本の立場や意向はまったく示されていないのである。AUKUS国防相声明を受けた4月9日の林芳正官房長官の会見でも、日本としてどのような協力を期待しているといった発信は一切なかった。

 端的にいってしまえば、日本との協力により関心があるのはAUKUSの側(なかでも特に米国)であり、日本がAUKUSへの関与を求めているのではないという基本的構図が浮かび上がる。

「協力」への課題は「trustworthiness」

 今後、まずはAUKUS諸国の間で日本との協力分野やその形態が協議されるわけだが、AUKUS国防相声明にはそのための条件と解釈可能な文が存在する。……

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カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
鶴岡路人(つるおかみちと) 慶應義塾大学総合政策学部准教授、戦略構想センター・副センター長 1975年東京生まれ。専門は現代欧州政治、国際安全保障など。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院法学研究科、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得(PhD in War Studies)。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、防衛省防衛研究所主任研究官、防衛省防衛政策局国際政策課部員、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)など。
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