中国不動産バブルは“いつから”崩壊していたのか?――12兆円粉飾決算が語る意外な真実

執筆者:高口康太 2024年4月23日
タグ: 中国
エリア: アジア
恒大集団の経営危機は「通説」より早い時期、少なくとも2019年には始まっていた[2024年1月29日、中国・南京](C)AFP=時事
中国経済を根底から揺さぶる住宅・不動産問題、その象徴とも言うべき恒大集団は2020年夏の不動産規制で経営危機に転落したというのが「通説」だ。だが、先ごろ明らかになった恒大の巨額粉飾決算の実態を分析すれば、正味の危機はもっと早く訪れていたと見るべきだろう。2014年に公布された習近平総書記の肝いり政策「新型都市化 」で沸騰した中国不動産バブルだが、その“崩壊”は一般に考えられてきたより早く、2010年代後半には始まっていた。

 売上11兆8400億円を過大に計上。史上最悪の粉飾決算が発覚した。

 中国不動産大手・恒大集団(エバーグランデ)は2019年に2139億元(約4兆4900億円)、2020年に3501億元(約7兆3500億円)の売り上げを水増ししていた。中国証券監督管理委員会(証監会)によってこの3月に明らかとなった。粉飾額はもともと発表されていた2019年売上の45%、2020年売上の69%に相当する。

 どうやったらこれほどの金額を水増しできるのか。粉飾の内実も気になるところだが、筆者が衝撃を受けたのは金額だけではない。恒大集団の経営危機が少なくとも2019年には始まっていたという“時期”の問題も驚きだった。広く報じられているとおり(そして私自身も何度も書いてきた話でもある)、同社の危機は2020年夏に施行された不動産企業への融資規制から始まったとされてきた。規制後に必死に対応しようとしたがその努力も空しく、2021年に債務危機に陥り、2022年に不動産業界全体の危機に広がった……という筋書きだ。

出所:国家統計局、各社決算資料をもとに筆者作成。2023年の売上は上半期

 実際に中国全体の住宅販売統計を見ても、2021年まで右肩上がりで成長が続き、2022年からすとんと落ちている。恒大集団と同じく破綻危機に瀕している碧桂園(カントリーガーデン)も同じトレンドを描いている。ところが恒大集団は2018年までは業界全体の動きと歩調を合わせていたのに、その後は業界全体のトレンドから外れている(図表1)。

 これをどう理解するべきだろうか。「恒大集団だけが個別の経営失敗の結果として落ち込んだ」というのが一つの解釈。そして、もう一つ、「恒大集団が粉飾していたように、中国不動産業界の落ち込みも隠されていたが、それが遅れて露見しつつある」という筋書きも考えられる。

旧市街地改造が生み出した地方不動産バブル

 陰謀論のように思われるかもしれないが、何の根拠もない思いつきというわけではない。……

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
高口康太(たかぐちこうた) 1976年、千葉県生まれ。ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国・天津の南開大学に中国国費留学生として留学中から中国関連ニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。中国経済と企業、在日中国人経済を専門に取材、執筆活動を続けている。 著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、共著)、『中国S級B級論』(さくら舎、共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、共編、大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)、『習近平の中国』(東京大学出版会、共著)など。
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