オランドは「シリア問題」解決へ「外交イニシアティブ」を握れるか

渡邊啓貴
執筆者:渡邊啓貴 2015年11月20日
エリア: ヨーロッパ 中東

 11月16日、オランド仏大統領は両院議員総会で「フランスは戦争状態にある」と断言し、国連安保理事会の招集を提案、来週米露を訪問し首脳会談を持つことを提案した。ロシアも取りこんだ国際連携で解決を図っていこうというオランド大統領の思惑は明瞭である。
 対テロの旗手として国際協力の第一線に立つことでプレゼンスを発揮したいというのがオランドの本音であろう。フランスはシリア攻撃の手を緩めないであろう。弱腰はテロに屈したということになるからである。しかし単独では攻撃を継続できない。有志連合の輪を広げ、その中でイニシアティブを発揮したい。とはいえロシアと米欧では、アサド政権に対する姿勢は異なる。オランド大統領の米露間の調整は奏功するであろうか。

フランスがシリアを空爆した経緯

 フランスのシリア空爆を大きなきっかけにしたパリの同時多発テロ事件は、さまざまな面に波紋を広げるであろう。フランス国内の治安の難しさ、犯人の中にイスラム系のフランス国籍の人間がいることに象徴されるフランスや他の西欧諸国の社会統合の矛盾。そして宗教観の違いを口火にして西欧的な価値観が問われ、文明の衝突はますます激烈さを増幅させている。国際社会全体を見回すと、シリア・中東をめぐる米欧露の外交イニシアティブをめぐる角逐、ひいては冷戦後の国際秩序の再編成をめぐるパワーゲームを過熱させる事態にもなりかねない。
 今回のテロの直接原因は、9月下旬にフランスがシリアへの空爆に踏み切ったことにある。2014年からアメリカを中心とした「イスラム国」(IS)攻撃が始まったが、フランスはイラク側からの空爆には加わったものの、シリア領の空爆には加担していなかった。
 その理由は、国連決議が出ていなかったこと、ISだけを目標にすることはアサド政権を利することになる可能性があることなどであった。
 もともと2012年選挙キャンペーンの時から、オランドはアサドの強権政治を人権・人道主義の立場から厳しく批判していたが、2014年にISが頭角を現し、アサド政権に対する政策が歪んでしまった。アサド政権にとってもISは獅子身中の虫となり、そんな中でISを爆撃することは、アサド政権のIS攻撃に手を貸す形ともなるからであった。
 しかしここにきて、ISの非人道的残虐行為やシリアから帰国したフランス人テロリストの潜伏情報によって事態の深刻さが増大し、早急な対応が迫られることから、オランド政権も空爆に踏み切った。
 実際に、ISのリクルーターを務めているサリム・ベンガレムという35歳のフランス人(パリ地方、ヴァル・ド・マルヌ県、カシャン出身)やフランス系のテロリストも、その攻撃のターゲットにされている。
 しかしこの攻撃が決定的なテロの終息につながるのか、というとそれを疑う声は最初から大きかった。そんな中で、今回のテロは起こった。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴
渡邊啓貴 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1954年生れ。パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。
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