インテリジェンス・ナウ
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クリントン氏の「メール問題」再燃も――裏にオバマ大統領の陰謀?

春名幹男
執筆者:春名幹男 2016年1月20日
カテゴリ: 国際 政治
エリア: 北米

 2月1日から始まる米民主・共和両党の大統領選挙予備選。日本メディアは今もトランプ旋風に目を向けるが、両党を通じて最も強力な候補者は、ヒラリー・クリントン前国務長官(68)だ。
 しかし、国務長官在任中に公務で私用メールアドレスを使って公務のメールを交わしていた問題がクリアされたわけではない。
 国務省は、予備選に入る直前の1月末までに、約3万通に上る公務メールをすべて公開する予定。昨年末までに2万4436通が公開されたが、AP通信によると、このうち1274通が機密情報と分類されたという。
 だが、機密に指定され、法律上も問題があると判断されたメールの存在が明らかにされたわけではない。外交誌フォーリン・ポリシー電子版が伝えた10通足らずのメールの内容は、「ラジオで閣議があると聞いたが、私は行けるか」「10:15に会議場所に着いたが、会議はやっていない」「私用のリンゴはどうやって買うの?」など他愛のないものが大半。一体、問題の本質はどこにあるのか。陰謀論も渦巻く中、事件の周辺を追った。

「グッチファー」の奇妙な事件

 メール問題が表面化するきっかけは2013年、ジャーナリスト、シドニー・ブルメンソール氏(67)がクリントン前長官に送付したメールがハッキング被害を受けて、公表されたことに遡る。
 そもそも、そのこと自体が、非常に奇妙な出来事だった。メールの日付は2011年10月15日で、リビアの独裁者カダフィ大佐が殺害された5日前のこと。当時クリントン国務長官の私的アドバイザーをしていたブルメンソール氏が、すっぱ抜きで有名なセイモア・ハーシュ氏が得た情報として「カダフィはチャドにいて、終わりなき戦闘を展開する意図だ」とのメールを長官個人用のアドレスに送信していたというのだ。この情報はそもそも全くの間違いで、ハーシュ氏自身、なぜそんな見当違いの情報が伝わったのか分からないと証言している。
 ブルメンソール氏はジャーナリストとしての力量よりもクリントン夫妻への忠誠心で知られた人物。1990年代にはクリントン元大統領の補佐官を務めたこともある。
 2008年大統領選予備選では、オバマ氏に対する中傷攻撃の「地下情報」を流していたと伝えられる。このため、オバマ政権のホワイトハウスはクリントン前長官がブルメンソール氏を上級顧問に任命しようした際に強く反対、結局彼はクリントン財団に身を置いた経緯もある。
 この事件のハッカーは、通称「グッチファー」(本名マルセル・レヘル・ラザール)と呼ばれるルーマニア人。彼はブッシュ家やパウエル元国務長官らのメール・アカウントもハッキングして懲役7年の罪で、現在ルーマニアの刑務所に収容されている。2014年当時、ニューヨーク・タイムズ紙記者がインタビューしたが、彼自身が得体の知れない人物のようだ。陰謀論に取り憑かれていると伝えられ、今もハッキングの動機は解明されていない。グッチファーはクリントン氏のメール・アカウントは攻撃していなかったようだ。

執筆者プロフィール
春名幹男
春名幹男 1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授を経て、現在、早稲田大学客員教授。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『スパイはなんでも知っている』(新潮社)などがある。
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