西欧の難民問題にトルコは「絨毯屋商法」で臨む

池内恵
執筆者:池内恵 2016年3月9日
カテゴリ: 国際 外交・安全保障
エリア: ヨーロッパ 中東

 トルコの名所、イスタンブルのバザールの絨毯屋商法を彷彿とさせる交渉術が、対EUの外交の場で旺盛に発揮され、EU首脳は振り回されている。

 3月7日にブリュッセルで行われたEUトルコ首脳会談で、トルコの協力を得たEUの難民対処策が合意される見通しだったが、直前にトルコが出してきた、難民対処へのEUの拠出金倍増の要求を受け、協議は10日程度の延期を迫られた。

 難民・移民問題はEUと加盟各国の最大の政治課題となっているが、うまくいくかいかないか分からない(多分うまくいかない)対処策についてさえも、常にトルコの協力が不可欠である。昨年11月にドイツのメルケル首相が主導して提示した、トルコに30億ユーロの経済支援を与える見返りに難民抱え込みを頼むという案をベースにして対処策が策定されてきたが、シリアから流出する難民の状況のさらなる悪化と、それに対処するEU諸国にとっての難民問題の政治的・経済的コストの増大を見透かして、トルコは追加でさらに30億ユーロを要求してきた。締結間際になっての2倍の条件釣り上げには、EU側は驚きを表明し、表向きは難色を示して、来週に予定されるEU首脳会談に結論を持ち越しているが、ギリシアのようなEU内の対難民「最前線」の国に対処能力が十分でない以上、当面はトルコに頼る以外に手段はなく、トルコが出してきた新条件を呑む以外に選択肢はないと思われる。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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