シリアのクルド人勢力の自治政府宣言の背後に米露の協調・支持はあるのか?

池内恵
執筆者:池内恵 2016年3月16日
カテゴリ: 国際 外交・安全保障
エリア: ロシア 中東

 シリア北部のクルド人勢力が、シリアの連邦化と、クルド地域の自治を近く宣言する見込みである。ここで鍵となるのは、背後でどの程度米露の同意を取り付けているかである。また、クルド人勢力の処遇をめぐって米露でどの程度の合意・協調がなされているのか。

 シリア北部のクルド人勢力を主導するPYDとその軍事部門YPGは、対「イスラーム国」の現地同盟勢力として米国から支援を受けてきた。

ロシアにシリア・クルド自治政府の「大使館」開設

 しかし同時にPYDはロシアにも接近していた。2月10日、モスクワで、PYDが主導して設立を表明しているRojavaと呼ばれるシリア北部のクルド人主体の事実上の自治行政体の「代表部」の開設が祝われた代表部開設はプーチン大統領本人の招待による開設と謳われた。公式にではないが、事実上の「大使館」である。

 これは直接的には、ロシアが対立を深めるトルコに「嫌がらせ」をしたと受け止められたが、より長期的に持続した場合は、ロシアがクルド人勢力の抱き込みを図り、先陣を切ってシリア北部クルド自治区を「承認」した瞬間であったということになる。もちろん、ロシアは、情勢が変われば非情に切り捨てる可能性も大いにある。クルド人の独立運動は、オスマン帝国崩壊期にイギリスに支援されたトルコ・アナトリア半島での運動も、イラクに支援されたイランでの運動も、域内・域外大国の思惑と国際関係のバランスに左右され、切り捨てられてきた。今回もやがてそのような運命を辿らないとも限らない。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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