バングラ・テロ1カ月:「イスラーム国」の対外戦略を分析する

保坂 修司
執筆者:保坂 修司 2016年8月2日

 バングラデシュの首都ダッカで7月1日、日本人7人を含む20人以上が犠牲になるという痛ましいテロ事件が起きた。犯行グループは当初より、イラクやシリアを拠点とするテロ組織「イスラーム国」(以下ISと略)とされ、実際彼らは犯行声明も出している。ISと地元過激派組織との具体的なつながりについてさらに報じられているが、バングラデシュ政府はISの関与を否定したままである。
 事件発生段階で多くの日本人はいくつかの「なぜ」を感じたにちがいない。ひとつは「なぜこの時期に」そして「なぜバングラデシュで」、もうひとつは「なぜ日本人が」である。

なぜこの時期に?

 最初の問い「なぜこの時期に」に関してはいくつかの視点がある。ひとつはイスラームの視点で、事件が起きた7月1日はイスラーム暦でいうと、ラマダーン月26日、同月最後の金曜日に当たる。ラマダーン月には、イスラーム教徒は日の出から日の入りまで一切の飲食を断たねばならない。大半のイスラーム教徒にとって自分自身の信仰を再確認し、信徒同士の連帯感を強く意識するときでもある。また、金曜日はイスラームでは集団礼拝の日であり、週のなかのもっとも重要な曜日にあたる。ISにかぎらず、いわゆるジハード主義系組織はこれまでもラマダーン月をとくに重視し、軍事攻勢をかけたり、金曜日を狙ってテロを起こしたりしてきた。
 もうひとつの見かたは、ISをめぐる状況の変化だ。昨年来、ISは本拠地のイラクやシリアで劣勢に立たされているとされ、ここ数カ月だけみても、イラク・シリア政府軍が有志連合やロシア軍の支援を得て、いくつものIS拠点を奪還、またISの首都とされるイラクのモスルやシリアのラッカにも迫っている。
 こうした劣勢を挽回するため、ISが、対IS攻撃に参加している国々を十字軍と呼び、標的にしているのもうなずける。実際、ラマダーン月に入る少しまえの5月21日、ISのアドナーニー報道官はインターネット上に音声メッセージを公開、とくに欧米在住のIS支持者たちに対しそれぞれの居住する国でラマダーン期間中にテロを起こすよう呼びかけている。

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執筆者プロフィール
保坂 修司
保坂 修司 ほさか・しゅうじ 日本エネルギー経済研究所・中東研究センター副センター長。専門分野はペルシャ湾岸地域近現代史、中東メディア論。1984年、慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了。89年、在クウェート日本大使館専門調査員。91年、 在サウジアラビア日本大使館専門調査員。日本学術振興会カイロ研究連絡センター長、近畿大学国際人文科学研究所教授などをへて、2012年より現職。著書に『サイバー・イスラーム』(山川出版社)、『新版オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版社)、『サウジアラビア――変りゆく石油大国――』(岩波新書)など。
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