「現職オバマ大統領」が大統領選に深く関与する理由

足立正彦
執筆者:足立正彦 2016年9月30日
カテゴリ: 国際 政治
エリア: 北米
7月27日の民主党大会で会場の声援に応えるオバマ大統領(左)とクリントン候補 (C)AFP=時事

 ドナルド・トランプ共和党候補とヒラリー・クリントン民主党候補との第1回大統領候補討論会が9月26日にニューヨーク州ヘンプステッドのホフストラ大学で行われた。沈着冷静であったクリントン氏は具体的政策についても豊富な政治経験と見識に基づき自らの議論を展開し、トランプ氏に対しても的確な反論を展開するなど、「優勢」を維持したまま第1回討論会を終えた。大統領選挙の本選挙キャンペーンは11月8日の投票日まで残りわずか40日余りとなった。ホワイトハウスを目指す両候補にとり、これからが正念場となる。

現職大統領「不介入」の伝統

 今回の大統領選挙キャンペーンを過去のものと比較すると、極めて異例との印象を受ける点がある。それは、現職大統領であるバラク・オバマ大統領がクリントン候補を積極的に支援している姿である。米国では2期8年の任期を終えようとしている現職大統領が自らの後任を選出する大統領選挙には介入しない伝統があった。第2次世界大戦後では、ドワイト・アイゼンハワー、ロナルド・レーガン、ビル・クリントンといった大統領がそうだった。これは現職大統領側の問題ではなく、むしろ、同一政党の大統領候補側の問題だった。候補者は自分自身の力で大統領選挙に勝利したいとの意欲があるため、現職大統領が自らの大統領選挙キャンペーンに関与することを避けたのだ。とりわけ、現職大統領の政権で副大統領の立場にあった候補にはそうした傾向が強い。副大統領として大統領選挙での勝利を目指した1960年のリチャード・ニクソン共和党候補、1968年のヒューバート・ハンフリー民主党候補、1988年のジョージ・H.W.ブッシュ共和党候補、2000年のアル・ゴア民主党候補は、それぞれ現職大統領と一定の距離を置いて選挙キャンペーンを展開した。
 筆者がワシントンに勤務していた当時の2000年大統領選挙の民主党大統領候補であったアル・ゴア副大統領も、その典型であった。ビル・クリントン大統領は政権末期でも大統領支持率が6割を上回り、米国経済も堅調に推移し、米国は対外的にも重大な脅威にさらされていなかった。にもかかわらず、ゴア候補は大統領選挙キャンペーンでクリントン大統領に支援を求めようとはしなかった。ゴア氏からすれば、クリントン大統領とは一定の距離を置いた上で、独自の力で共和党大統領候補であったジョージ・W.ブッシュ・テキサス州知事に勝利したい気持ちが強くあったと推察される。それと同時に、ホワイトハウスのインターンとのスキャンダルが第2期クリントン政権を襲ったため、共和党のクリントン大統領批判に巻き込まれることへの恐れもあったと考えられる。結局、選挙キャンペーンの最終盤にブッシュ候補と接戦となり、自らが下院議員、上院議員として選出されていたテネシー州をはじめとする南部諸州でも勝利できない可能性が浮上してから、ようやくゴア陣営はクリントン大統領が南部諸州での選挙キャンペーンに加わることを認めたが、「時すでに遅し」で、ゴア候補はかつての地元テネシー州でも敗北し、南部で全敗を喫してブッシュ氏に僅差で敗北した。

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執筆者プロフィール
足立正彦
足立正彦 住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。
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