「トランプ大統領」を「嵐の拍手」で迎えたロシアの思惑

名越健郎
執筆者:名越健郎 2016年11月10日
プーチン大統領の胸の内は……(11月8日、クレムリンで)(C)EPA=時事

 米大統領選でのドナルド・トランプ候補の勝利が9日、ロシア下院で報告されると、全議員が立ち上がり、「嵐のような拍手」(モスクワ・タイムズ紙)が起きたという。かつてのソ連共産党大会の常套句だった「嵐のような拍手」がよみがえった。プーチン大統領を「世界の偉大なリーダー」と呼び、米露関係改善を訴えるトランプ氏の就任で、ロシアは孤立から脱却できるとの期待感が高まっている。とはいえ、米露双方が偏狭なナショナリズムを貫く政権となることで、米露関係や国際情勢は脆さを抱えることになりかねない。

「米国からの贈り物」

 プーチン大統領はトランプ氏に祝電を送り、「米露関係の危機的状況からの脱却、当面の国際問題解決、世界の安全保障の脅威への効果的対応に向け、共同作業に期待する」と伝えた。クレムリンで開かれた大使の信任状奉呈式でも「われわれは米露関係を改善したいとする選挙戦中の発言に注目してきた。それは容易ではないが、われわれは米国との関係を全面的に復活させる用意があり、それを望んでいる」と言及した。
 ペスコフ大統領府報道官は、プーチン大統領がトランプ氏と就任前に会うのかとの質問に、「今のところ会談や電話協議の予定はない。来年1月20日まではオバマ政権が相手であり、11月19、20日のリマでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でオバマ大統領と会談する可能性がある」と述べた。発言には余裕があり、ロシアはトランプ政権登場を待ってアプローチをかける構えだ。
 米紙ニューヨーク・タイムズ(11月9日付)は「トランプ氏の外交経験欠如、(時代遅れとする)北大西洋条約機構(NATO)への疑問、プーチン大統領への称賛、クリミア併合を容認するような発言は、クレムリンの術中にはまるものだ」とし、米大統領選は「ロシアとプーチン大統領への米国からのサプライズの贈り物」と書いた。 

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執筆者プロフィール
名越健郎 1953年岡山県生れ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長を歴任。2011年、同社退社。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学東アジア調査研究センター特任教授。著書に『クレムリン秘密文書は語る―闇の日ソ関係史』(中公新書)、『独裁者たちへ!!―ひと口レジスタンス459』(講談社)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
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