医療崩壊 (3)

「厚労省vs.文科省」利権争いで停滞する「がん治療」最前線

執筆者:上昌広 2017年8月8日
エリア: 北米 アジア
放射線医学総合研究所に設置された重粒子線治療装置(C)時事

 

 粒子線治療という言葉をお聞きになったことがおありだろうか。がんの放射線治療の一種だ。

 水素原子核である陽子を用いた陽子線治療と、炭素以上の重たいイオンの原子を用いる重粒子線治療がある。粒子線治療は、陽子や重粒子を加速させ、がん組織を攻撃する。

 従来のX線を用いた放射線治療は体表で効果が最大となり、体内では効果が減弱する。つまり、体内のがん病巣を狙いうちしようとすれば、どうしても皮膚など周辺組織を傷めてしまう。一方、粒子線治療はがん病巣で放射線量をピークできる特性(ブラッグ・ピーク)がある。がん組織にピンポイントに狙いを絞れば、正常組織への副作用を抑えながら、効果を最大限にすることができる。

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執筆者プロフィール
上昌広(かみまさひろ) 特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」理事長。 1968年生まれ、兵庫県出身。東京大学医学部医学科を卒業し、同大学大学院医学系研究科修了。東京都立駒込病院血液内科医員、虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員として造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事し、2016年3月まで東京大学医科学研究所特任教授を務める。内科医(専門は血液・腫瘍内科学)。2005年10月より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究している。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」の編集長も務め、積極的な情報発信を行っている。『復興は現場から動き出す 』(東洋経済新報社)、『日本の医療 崩壊を招いた構造と再生への提言 』(蕗書房 )、『日本の医療格差は9倍 医師不足の真実』(光文社新書)、『医療詐欺 「先端医療」と「新薬」は、まず疑うのが正しい』(講談社+α新書)、『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日 』(朝日新聞出版)など著書多数。
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