【ブックハンティング】「弱さ」を抱えた経済学者が織りなす奮戦記

執筆者:堂目卓生 2013年6月28日
 『大いなる探求(上)』
『大いなる探求(上)』

シルヴィア・ナサー著
/徳川家広訳
新潮社

 18世紀後半のイギリスで起こった産業革命は、人類の歴史に劇的な変化をもたらした。科学の進歩を背景に、生産技術の革新によって生産性は飛躍的に伸びた。人びとの暮らしは良くなり、人類は有史以来悩まされてきた問題――貧困――を克服したかのように思われた。

 しかし、生活水準の向上は人口を増大させた。また、市場の自由化と拡大が、景気循環という新たな問題を生んだ。特に景気後退の局面で、競争に敗れた者は惨めな生活を強いられ、「豊かさの中の貧困」が現れた。

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執筆者プロフィール
堂目卓生(どうめたくお) 大阪大学大学院教授。1959年生れ。京都大学大学院博士課程修了(経済学博士)。18世紀および19世紀のイギリスの経済学を専門とし、経済学の思想的・人間学的基礎を研究。おもに英語圏の学術誌で論文を発表してきた。著書『アダム・スミス――「道徳感情論」と「国富論」の世界』(中公新書)でサントリー学芸賞受賞。
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