国際論壇レビュー
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南シナ海「新常態」:「緊迫」の裏にある微妙な国際関係

会田弘継

 日本の安倍晋三首相が4月末から5月初めに米国を公式訪問し、日米同盟の結束強化を図れば、中国の習近平主席は、主要国がボイコットしたロシア主催の5月9日の対独戦勝70周年記念式典でプーチン大統領と肩を並べた。直後、中ロ海軍は、地中海ではじめて合同演習を行っている。それから1週間も経ず、インドのモディ首相が就任後はじめて訪中し、中国がインドのインフラ建設などで100億ドルに及ぶ事業協力をすることで合意、国境地帯での衝突回避の具体策なども決めた。

 一方、大国首脳外交の傍らで、トルコ艦隊が香港・上海に寄港、フランスも中国への売却話が持ち上がっているミストラル級強襲揚陸艦を旗艦とする艦隊を上海に送り込み、いずれも憶測を呼んだ。
 こうした動きすべてが、世界が新たな秩序を模索していることを示唆している。人々がその背後に感じるものを言い表す言葉があるとすれば、それは「地政学」(geopolitics)だ。

 

対中「軍事威嚇」をはじめた米国

 そんな中、南シナ海で米中の確執が強まり、緊張が高まっている。米海軍は5月上旬、中国が岩礁埋め立てで滑走路建設などを行っている南沙(スプラトリー)諸島海域に、米国サンディエゴを母港とする最新鋭の沿岸海域戦闘艦(LCS)フォートワースをはじめて派遣、警戒監視活動(パトロール)をさせた。中国側はこれをフリゲート艦などで追尾。米紙『ロサンゼルス・タイムズ(LAタイムズ)』によれば、米海軍当局者はフォートワース派遣について、一帯を領海だとする中国の主張を米政府は認めないことを示すためで、今後もパトロールを続行するという。【The World; U.S. watching South China Sea, Los Angels Times, May 16
 同紙によれば、米軍は戦略的に重要なこの海域で中国が「事実上の支配権」を打ち立てようとしていることを警戒。中国が埋め立てている岩礁の「12海里」(22キロの「領海」を指す)内に米艦船を入れることを含めた対応策をつくり、オバマ大統領に提示するという。米側は日本の海上自衛隊にも南シナ海の警戒監視活動に加わるよう求めていると同紙は報じている。集団的自衛権行使を容認し、日米防衛協力指針(ガイドライン)を改訂した日本に、米側はさっそく課題を突き付けてきたわけだ。
 中国はこの1年ほどスプラトリー諸島の岩礁5カ所(ファイアリー・クロス、南北ジョンソン、クアテロン、ゲイブン各岩礁)で埋め立て工事を進め、その規模は約2000エーカー(8平方キロ、東京ドームの170倍)に及ぶ。うちファイアリー・クロスでは滑走路とみられる建設が進み、米側試算では2017年には完成見込みだ。
 これに対し、米海軍は16カ月単位のローテーション方式でシンガポールに2隻配備している戦闘艦を4隻に増強するという。
 領土問題では平和解決を訴え「中立」が原則だった米国も、中国に対し軍事力で威嚇しはじめた。今回の戦闘艦フォートワースのパトロールについて、担当の司令官は、「これからは、こうした活動は『新常態』(new normal)だ」と、中国の政策用語をもじってLAタイムズに説明している。米国はいよいよ南シナ海の「公海航行の自由」維持に本腰を入れはじめたのか。日本はどう出るべきか。重大局面といえる。

執筆者プロフィール
会田弘継
会田弘継 青山学院大学地球社会共生学部教授、共同通信客員論説委員。1951年生れ。東京外国語大学英米科卒。共同通信ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。2015年4月より現職。著書に本誌連載をまとめた『追跡・アメリカの思想家たち』(新潮選書)、『戦争を始めるのは誰か』(講談社現代新書)、訳書にフランシス・フクヤマ『アメリカの終わり』(講談社)などがある。
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