ドネツク人民共和国往還記(中)住民投票は何をもたらしたか

執筆者:国末憲人 2015年11月5日
エリア: ヨーロッパ

 今回ドネツクを訪れたのは、「ドネツク人民共和国」の独立を決めた1年前の住民投票に関する取材のためだった。住民投票は正しい手順を踏んでいたか、不正や操作はなかったか、そもそも実施すべきだったのか。それを検証しようと、投票を準備した人民共和国の最高議会(ソビエト)議長ボリス・リトヴィノフ(61)にインタビューを申し込んだのである。

 リトヴィノフは、大学の教員も経験したインテリで、ソ連時代からの共産党の政治家である。ソ連崩壊後のウクライナで州議会議員などを務めていた。

ドネツク人民共和国の旗を背にしたリトヴィノフ議長(筆者撮影、以下同)

 約束の5月6日午後6時、「ドネツク人民共和国政府庁舎」、つまり旧市役所の9階にある執務室を訪ねた。その壁には、2枚の肖像画のコピーがピン留めされている。1枚はスターリンである。迎えてくれたリトヴィノフによると、スターリンはソ連救国の英雄なのだそうである。

カテゴリ: 政治 社会 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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