「遊民経済学」への招待
「遊民経済学」への招待(25)

高齢者マネーと老後の道楽

吉崎達彦

 若い世代はご存じないかもしれないが、その昔、日本興業銀行という銀行があった。ある時期までは、本当に立派な会社であった。私の母は若い頃、その行員であったことを生涯の誇りにしていた。
 まだ終戦から間もない頃のことである。「新円切り替え」という暴挙が行われた。わが国の歴史において、ただ一度だけ行われた「預金封鎖」である。銀行に詰めかける殺気立った預金者たち(その多くは企業経営者であった)に対し、窓口に立った彼女は一人で「決まりですから払えません」という説明を何度も繰り返したという。
 高校を出たての女子行員にとって、それは大変に強烈な経験であったようで、そのことをよく私に語ってくれたものだ。
「だからね、政府ってのは信用しちゃいけないのよ。困ったら何をするかわからないんだから」

 すべての人がそうだとは言わないが、昭和ひとけた世代には、こういう考え方の持ち主が少なくないと思う。もし母が生きていたら、今頃は口を極めてマイナス金利政策をののしっていたはずである。前回に続いて申し上げるが、あれは確実に高齢者を敵に回す政策だと思う。
 日本銀行のメッセージはきわめて明快である。「安全資産を持っていても、いいことないですよ」。だから企業は内部留保を吐き出しなさい。ちゃんと設備投資をして金儲けをしてください。できれば賃上げもやってください、でなきゃ、いつまでたってもデフレから脱却できないじゃないですか、ということである。
家計に対しては、普通預金や債券だけじゃなくて、少しは株も買ってくださいな。日本経済にはリスクマネーが足りないんですから。もっといいのは、お金を使ってくれることですよ。あの世にお金は持っていけませんからねえ、てな感じであろう。

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執筆者プロフィール
吉崎達彦
吉崎達彦 双日総合研究所チーフエコノミスト。1960年(昭和35年)富山市生まれ。一橋大学社会学部卒業後、1984年日商岩井(現双日)に入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会調査役などを経て現職。新聞・経済誌・週刊誌等への執筆の他、「サンデープロジェクト」等TVでも活躍。また、自身のホームページ「溜池通信」では、アメリカを中心に世界の政治経済について鋭く分析したレポートを配信中。著書に『溜池通信 いかにもこれが経済』(日本経済新聞出版社)、『1985年』(新潮新書)など、共著に『ヤバい日本経済』(東洋経済新報社)がある。
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