「南沙問題」で決め手を欠く「米国」の対中政策:議会公聴会から
 

林吉永
執筆者:林吉永 2016年8月15日
カテゴリ: 国際 外交・安全保障
エリア: 北米 中国・台湾

 仲裁裁判所は、さる7月12日、中国の権利を否定しフィリピンの主張を認めた。この裁決は、「ことを収める」のではなく、中国をワル者にして、中国がなりふり構わず「ことを荒立てる」きっかけを作った感がある。中国は、まるで八つ当たりのように、漁船や海警の船を大挙して尖閣周辺接続水域、領海に送り込んで来た。
 
 7月13日には、元米太平洋軍司令官デニス・ブレア、元米国東アジア・太平洋担当国務次官補カート・キャンベル両氏が米国議会公聴会に招聘され、「中国及び米国の戦略姿勢」「米国の対中戦略」について述べた。しかし、発言内容からは、米国が直ちに反応して行動を起こす気配は感じられない。
 
 他方、日本は、日米同盟の深化を企図して集団的自衛権行使の容認という防衛・安全保障政策の変革を行った。しかし、裁決後、米・中の戦略的動向を把握して事態の変化に備える議論は無く、中国の示威行動だけに目が向いている感がある。そこで、時宜に応じた米国議会公聴会のやりとりから「米国の視点と対応」「日本への期待」を探り、示唆を提供したい。

「対中ジレンマ」

 中国の「法より力の支配」「習近平体制の権威を強化」「ナショナリズムの高揚」「仲裁判決に真っ向対立する世界秩序への挑戦」という姿勢は、米国の対中不信感を強めている。中国海軍のEEZ(排他的経済水域)を含む支配海域の拡大、軍事的要衝となる南沙飛行場建設は、南および東シナ海におけるシーコントロール(海洋優勢)獲得、次に太平洋を目指し、対米挑戦に向かう第1段階である。
 
 米国のアジア・西太平洋戦略は、「米西戦争以来の軍事プレゼンス」「台湾との特別な関係」「ASEANとの戦略的パートナーシップ」「日・韓・比との同盟関係」「ベトナムとの非公式な戦略同盟関係」の堅持である。わけても「警戒と忍耐」「アジア基軸戦略 “Asia Pivot Strategy”」「アジア・太平洋への戦略重心の移動 “Rebalancing”」は対中意識の時代精神となっている。

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執筆者プロフィール
林吉永
林吉永 はやし・よしなが NPO国際地政学研究所理事、軍事史学者。1942年神奈川県生れ。65年防衛大卒、米国空軍大学留学、航空幕僚監部総務課長などを経て、航空自衛隊北部航空警戒管制団司令、第7航空団司令、幹部候補生学校長を歴任、退官後2007年まで防衛研究所戦史部長。日本戦略研究フォーラム常務理事を経て、2011年9月国際地政学研究所を発起設立。政府調査業務の執筆編集、シンポジウムの企画運営、海外研究所との協同セミナーの企画運営などを行っている。
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