軍事のコモンセンス (2)

集団安全保障と憲法第9条(下)

執筆者:冨澤暉 2016年9月24日
エリア: アジア

 では、集団安全保障の場における武力行使とはどういうものなのだろうか。
 5大国に限らず諸外国軍が、多国籍軍や国連軍に参加して外地で戦闘する場合、あるいは、本来戦闘を目的とせぬPKO(平和維持活動)に参加しながら、やむを得ず戦闘する場合がある。実はこれが集団安全保障における武力行使なのであり、明らかに自衛とはいえぬ武力行使である。
 これらは、各国独自の権限に属するものではなく、「世界の秩序維持機構たる国連」の要請に応じての義務遂行にあたるもので、不戦条約や憲法9条が禁止する武力行使や自衛のための武力行使(すなわち、各国権の発動として、あるいは各国策を遂行するためのもの)とはまったく系列を異にするものである。
 これをわれわれの一般生活にあてはめれば、各個人には正当防衛(自衛)しか許されないが、その個人も、警察官に指名された場合には、公務遂行のため、武器を持ち、使用し、犯人と戦い、捕まえなければならない、というのと同じだ。これは、個人の正当防衛という権利行使ではなく、警察官としての公務執行という義務遂行なのである。
 前回紹介した小泉発言は「5大国は世界の警察官になることを自任しているが、わが国は警察官にはならないと決めている。だから警察官にならないのだ」ということだったのではないか。
 それならば一応の理屈は通るのだが、果たして日本は「世界の警察官にはならない」と決めているのだろうか。そして、首相は本当にそう考えているのだろうか。そこが問題である。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
冨澤暉(とみざわひかる) 元陸将、東洋学園大学理事・名誉教授、財団法人偕行社理事長、日本防衛学会顧問。1938年生まれ。防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊に入隊。米陸軍機甲学校に留学。第1師団長、陸上幕僚副長、北部方面総監を経て、陸上幕僚長を最後に1995年退官。著書に『逆説の軍事論』(バジリコ)、『シンポジウム イラク戦争』(編著、かや書房)、『矛盾だらけの日本の安全保障』(田原総一朗氏との対談、海竜社)。
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