マネーの魔術史 (44)

集団農場で農民は再び奴隷になった

執筆者:野口悠紀雄 2018年3月29日
タグ: ロシア
エリア: ヨーロッパ
(C)AFP=時事

 

 ソ連の農家集団化方式としては、いくつかのものがあったが、アルテリという方式のコルホーズ(集団農場)が最も多かった。

 アルテリでは、耕地と農業施設、機械、家畜、種子など、主要な生産手段と農具の主要部分は共同化されたが、家屋とその付属地(菜園)、およびそれに付随する家畜などについては、私有が認められていた。菜園でとれた作物は自家用にし、あるいは市場へ売ることができた。1933年までに全集団農場の96%がアルテリになった。

 コルホーズとは、「農民が生産手段をプールし、収穫を分配する協同組合組織」と説明されるのだが、その実態は、国家が農産物を強奪するための仕組みだった。国家出先機関であるMTC(機械・トラクター・ステーション)がアルテリと契約し、農業機械を提供する。収穫はまず国家に引き渡し、次にMTCに支払い、残りを農民世帯に分配した。こうして、農業総収穫の4~5割がほとんど無償で国家に提供された。

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執筆者プロフィール
野口悠紀雄(のぐちゆきお) 1940年東京生まれ。東京大学工学部卒業後、大蔵省入省。1972年エール大学Ph.D.(経済学博士号)取得。一橋大学教授、東京大学教授などを経て、現在、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論。1992年に『バブルの経済学』(日本経済新聞社)で吉野作造賞。ミリオンセラーとなった『「超」整理法』(中公新書)ほか『戦後日本経済史』(新潮社)、『数字は武器になる』(同)、『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞社)、『マネーの魔術史』(新潮選書)、『AI時代の「超」発想法』(PHPビジネス新書)など著書多数。公式ホームページ『野口悠紀雄Online』【http://www.noguchi.co.jp
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