クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?
クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

新教皇の清貧

徳岡孝夫
執筆者:徳岡孝夫 2013年4月10日
カテゴリ: 国際 文化・歴史
エリア: ヨーロッパ 中南米

 いまから30数年の昔、現役の新聞記者だった私は、アルゼンチン政府の招待取材で、数人の各社記者と共にブエノスアイレスにいた。折から私たちのホテルに近いカトリック聖堂で、死者の名も地位も忘れたが故人を送る葬儀が執行されている。いい機会である。私は聖堂に入って後方の空いた席にかけ、ミサの進行を見守った。そして驚いた。

 列席者の大半は軍人で、それもかなり高位、高齢の人々であることが胸の勲章から見て取れる。神父の朗唱する祈祷文に応えるmiserere nobis(我らを憐れみ給え)、deo gratias(神に感謝)などラテン語の祈りがピシッと決まっている。明らかに日曜ごとに教会に行ってミサに与っている信徒の声である。

 

 ミサが進んで「デ・プロフンディス(深き淵より)」の歌になったとき、私は死者のことを忘れて感動に痺れた。低く深い、淵の底から神を呼ぶような男声の合唱。それは明らかに幼いときから聖歌を歌い慣れた会衆が、心と信仰を1つにして歌っている声だった。

 当時は、まだアルゼンチン軍がフォークランド島をめぐる戦闘で英軍に負ける前だったので、私は聖歌を歌うアルゼンチンの軍人たちに素直に感動した。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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