「化学兵器管理」を一致点とする大国間の取引──シリア問題への熟考(4)

池内恵
執筆者:池内恵 2013年9月10日
カテゴリ: 国際 外交・安全保障
エリア: ロシア 中東 北米

 シリア問題をめぐる大国間外交が急激に動いている。この欄の前回の項でも記したが、9日のロシアのラブロフ外相によるシリアの化学兵器の国際管理および廃棄、そして化学兵器禁止条約への加盟を求める提案に、アメリカがイギリスやフランスと共に肯定的な反応を示したが、ここに中国も賛意を表明した。安保理で拒否権を持つ常任理事国すべてが、シリアに化学兵器を放棄させるという点で一致したことになる。ロシア訪問中のシリアのムアッレム外相は9日は提案を「歓迎する」とのみしていたが、翌10日にはシリア政府として「同意した」と発表している。

 フランスは早速、安保理決議案の提出の意思を表明しており、決議案ではシリアに化学兵器廃棄を義務づけ、それに違反した場合に「きわめて重大な」結果を招くという文言を盛り込むことを検討しているようである。軍事行動の裁可を意味するこの文言をロシアや中国が呑むかどうかわからないが、決議に反対すれば、やはりラブロフ提案は遅延行為だったとみなされることになるため、シリア問題をめぐってついに何らかの安保理決議を通さざるを得なくなるのではないか。ロシアと中国の拒否権に阻まれて、安保理決議に支えられた実効性のある国際介入の道が閉ざされてきたシリア内戦だが、ここで方向が大きく変わるかもしれない。ロシアも提案へのフォローアップの姿勢を見せている。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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