騙すこと、騙されること

星野 智幸
執筆者:星野 智幸 2014年7月4日
エリア: 中南米

 日本代表の新監督が決まろうとしている。2002年、2010年の2つのワールドカップでメキシコ代表を率い、魅力的なサッカーでグループリーグ突破を成し遂げたハビエル・アギーレ氏が、有力な候補であることが報じられている。

 体格が日本人と近く、パスを主体としたサッカーでそれなりの結果を出しているメキシコを、日本は1つの手本とすべきだとする意見はかねてから強かった。アギーレ氏は代表だけでなく、スペインリーグでもオサスナなどの監督を務めて、オサスナの隆盛期を作り出しているから、その手腕に期待はできるだろう。

 だが、メキシコと日本でははるかに隔たっている要素もある。メキシコが、南米のチームと共有している、騙す力である。

 

同調しやすさと騙されやすさ

 ブラジルW杯、日本の初戦、対コートジボワール戦。私の座っていた席の右前方に、たくさんのメキシコ人が陣取っていた。彼らとすぐにうちとけて意気投合していたのが、そばにいた若い日本人のサポーターのグループで、勢いのよい応援を繰り広げて目立っていた。

 国歌斉唱で起立した後、キックオフ後もその若者たちは立ったままテンション高く声援を送る。後ろのメキシコ人たちが、見えないので座るように求めた。すると、若者の1人は、わかってくれよ、というような顔をして、一緒に立って盛り上がろうというようなジェスチャーをした。だが、メキシコ人たちは応じなかった。なぜなら、どちらにもまだチャンスは訪れていなかったし、メキシコ人には、空気を読んで一緒に盛り上がるという発想はないからである。かれらは自分の衝動に従って、1人ひとりが勝手に盛り上がる。それが同じ行為になれば、集団的な応援に昇華する。

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執筆者プロフィール
星野 智幸
星野 智幸 作家。1965年ロサンゼルス生れ。早稲田大学第一文学部を卒業後、新聞記者をへて、メキシコに留学。1997年『最後の吐息』(文藝賞)でデビュー。2000年『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞、2003年『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、2011年『俺俺』で大江健三郎賞を受賞。著書に『ロンリー・ハーツ・キラー』『アルカロイド・ラヴァーズ』『水族』『無間道』などがある。
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