ECB量的緩和:不気味な「ドイツ」と「EU」の距離感

佐藤伸行
執筆者:佐藤伸行 2015年1月27日
エリア: ヨーロッパ

 欧州中央銀行(ECB)が量的緩和に踏み切った。ECBがデフレ対策で国債を買い入れるのは1999年の単一通貨ユーロ導入以降初めてで、ユーロ圏の金融政策は新たな次元に突入した。今回の決定は構造改革論を金科玉条とするドイツの抵抗を押し切って強行されたものとされるが、ことはさほど単純ではなく、いわばメルケル政権のユーロ圏に対する冷淡さ、欧州における統合推進力の決定的な衰えも印象付ける展開となっている。量的緩和に伴う政治的副作用は大きく、欧州政情の波乱要因としても注視していく必要がある。

 

一斉に非を鳴らすドイツ・メディア

 2016年9月までを想定した1兆ユーロ超の買い入れを打ち出した量的緩和に対するドイツの論調は激越だ。

 代表的経済紙ハンデルスブラットは「アルコール中毒者に無料のビールを、麻薬中毒者にただで薬物を提供するようなもので、量的緩和はドラギ総裁の麻薬だ」と、手厳しくかつ感情的に指弾する論評を掲載したほどだ。

 フランクフルター・アルゲマイネ紙も、量的緩和はユーロへの信認を自ら破棄するものであり、ユーロ加盟国に必要な構造改革を停止させる行為だと批判した。

 メルケル首相がアベノミクスに批判的で、経済の再生は構造改革を通じて成し遂げなければならないという政治経済哲学を披瀝し、安倍政権への説教を試みたことも記憶に新しいが、ワイマール時代の天文学的インフレによる経済破滅の記憶が悪夢としてつきまとうドイツにとって、量的緩和は生理的に受け付けない金融政策のようだ。

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執筆者プロフィール
佐藤伸行
佐藤伸行 追手門学院大学経済学部教授。1960年山形県生れ。85年早稲田大学卒業後、時事通信社入社。90年代はハンブルク支局、ベルリン支局でドイツ統一プロセスとその後のドイツ情勢をカバー。98年から2003年までウィーン支局で旧ユーゴスラビア民族紛争など東欧問題を取材した。06年から09年までワシントン支局勤務を経て編集委員を務め退職。15年より現職。著書に『世界最強の女帝 メルケルの謎』(文春新書)。
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