「遊民経済学」への招待 (5)

鉄道が変われば観光が変わる

執筆者:吉崎達彦 2015年5月30日
エリア: アジア

 かねがね日本映画のベストワンは、『砂の器』ではないかと思っている。
 もちろん1974年の野村芳太郎監督作品のことである。SMAPなんぞが出てきて、犯人の動機が書き換えられているリメイク作品なんぞにはまったく用がない。
 『砂の器』は一作のみ、松本清張原作を橋本忍と山田洋次が脚本化した昭和の社会派サスペンスでなければならない。犯人役は加藤剛、それを追う刑事は丹波哲郎と森田健作。彼らを大岡越前と霊界オヤジと千葉県知事だと思ったら大間違いである。昭和の男たちは、今風のヤワな「イケメン」どもとは違い、筋金入りの「オトコ前」だ。最終シーンでは、交響曲『宿命』とともに、主人公の親子が全国を放浪する衝撃的なシーンが続き、それに丹波の重厚な声が重なる。まさしく、日本映画が生み出した奇跡ではないだろうか。ああ、またDVD(2005年デジタルリマスター版)を見たくなったではないか。
 などとこの映画について語り始めると、ついつい止まらなくなってしまう。

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執筆者プロフィール
吉崎達彦(よしざきたつひこ) 双日総合研究所チーフエコノミスト。1960年(昭和35年)富山市生まれ。一橋大学社会学部卒業後、1984年日商岩井(現双日)に入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会調査役などを経て現職。新聞・経済誌・週刊誌等への執筆の他、「サンデープロジェクト」等TVでも活躍。また、自身のホームページ「溜池通信」では、アメリカを中心に世界の政治経済について鋭く分析したレポートを配信中。著書に『溜池通信 いかにもこれが経済』(日本経済新聞出版社)、『1985年』(新潮新書)など、共著に『ヤバい日本経済』(東洋経済新報社)がある。
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