かねがね日本映画のベストワンは、『砂の器』ではないかと思っている。
もちろん1974年の野村芳太郎監督作品のことである。SMAPなんぞが出てきて、犯人の動機が書き換えられているリメイク作品なんぞにはまったく用がない。
『砂の器』は一作のみ、松本清張原作を橋本忍と山田洋次が脚本化した昭和の社会派サスペンスでなければならない。犯人役は加藤剛、それを追う刑事は丹波哲郎と森田健作。彼らを大岡越前と霊界オヤジと千葉県知事だと思ったら大間違いである。昭和の男たちは、今風のヤワな「イケメン」どもとは違い、筋金入りの「オトコ前」だ。最終シーンでは、交響曲『宿命』とともに、主人公の親子が全国を放浪する衝撃的なシーンが続き、それに丹波の重厚な声が重なる。まさしく、日本映画が生み出した奇跡ではないだろうか。ああ、またDVD(2005年デジタルリマスター版)を見たくなったではないか。
などとこの映画について語り始めると、ついつい止まらなくなってしまう。

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