中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(88)

ギリシア――ヨーロッパの内なる中東

池内恵
執筆者:池内恵 2015年7月8日
エリア: ヨーロッパ 中東

 ギリシア問題は6月30日のIMF(国際通貨基金)への債務履行期限を超えて宙づりになっている。一気にユーロ圏離脱やドラクマ復活へと進むのか、それとも一時しのぎの更なる支援策で合意するのか、それとも事態の根本的な解決を図る動きがついに出てくるのか。この文章が掲載される頃には見通しが立っているかもしれない。
 もちろん中東を専門とする筆者にとってギリシア関連はまったくの素人である。しかし、ギリシアが抱える問題には、地中海を囲む隣国であるアラブ諸国にのし掛かる問題と、同根の部分があるのではないのか。ギリシア問題は、歴史的に遡ってみれば、「中東問題」の一部とも言えるのではないのか。そんなことを、6月30日深夜に債務不履行の「カウントダウン」を報じるBBCの現場中継を、アラブ首長国連邦アブダビで眺めながら、考えていた。
「中東―危機の震源を読む」欄への久しぶりの寄稿に際して、筆者の「リハビリ」も兼ねて、歴史的視野からの中東論を、ギリシア問題を引き合いに、類推や飛躍も大いに交えて、論じてみることを許していただきたい。

ギリシアはヨーロッパなのか

 7月6日にイスラエルを訪問したギリシアのコチアス外相は「ギリシアのいないヨーロッパはジョークだ」とインタビューで語ったという(‘Europe without Greece? Joke,’ says Greek foreign minister, AFP )。
 古代ギリシア文明が、科学と人間主義の哲学、そして民主主義の政体を生み出し、近代西洋の諸学と政治体制の模範とされて、近代ヨーロッパの理念的基礎となったことは言うまでもない事実だ。しかし近代のギリシアが、古代ギリシア文明とどのようにつながるのか。話は単純ではない。
 近代のギリシアが本当に「ヨーロッパ」なのか、と問えば、多くの西欧人が首をかしげるだろう。イギリスやフランスやドイツなど「先進」的な西欧諸国は、古代ギリシアを近代西洋文明の精神的な拠り所としつつ、近現代のギリシアのことは「後進国」として見てきたことは否定できない。西欧諸国とギリシアには今も大きな経済格差があり、軍事政権や有力家系の支配が長く続いた政治体制、ギリシア正教の宗教・文化など、ヨーロッパよりもその外の途上国との政治文化的な類縁性がギリシアには見られる。

執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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